少女騎士






 細い腕とか、足とか、腰とか。
 その体躯を服から引きずり出して「やっぱり」と呟いたオレは愚かだったろうか。伏せた目でこちらを見ない、その胸中は今何をおもってる?「やっぱり」思ったとおりだった、お前は「女だった」んだな、暴れまわるお前を押さえつけてまるで暴漢みたいだったけど、引きずり出したらこんなにもおとなしく諦める。なぁ、これがオレじゃなかったらどうしたんだよ、お前。オレだって、どうするかわかんねぇよ、男と女なんて、「なぁ」。

「エイト」
 名を呼べど伏せた目をそのままに何の反応も返さない。怒っているのか、そうか、怒っているんだろう。だけどこうしたことを「ごめん」素直に謝っちまえば「…………」息を潜める小さな沈黙が聞き取れて、そしてオレはか細い声で許しを請うみたいに「ごめん」と言えば「……いいよ、もう」躊躇しがちにそれでもいいと、許してやると、聖職者より聖職者らしく懺悔に微笑んですらして。

「ずっと好きだったから」
 ああ、自分はなんてずるい奴なんだろう。口八丁手八丁ですべて騙して八方美人に笑いかける(本当は誰にだって笑いかけてなんかないけど)。ちょっとだけ、恋に溺れた可哀想な男を演じてやればころりと許しを与えて。
 驚きに見開かれた目、伏せていた目がやっと。やっと此方を見た。
 女なんて、女なんて、女なんて。

「もう二度と触らないでくれたら、許してやる」

 エイトは。
 にこりと、笑って条件を差し出した。許しを求めているのか、エイトを求めているのか、軽くも重い選択を迫られる。赦免と拒絶、それとも。



 我儘で傲慢な男は口を閉ざして唇を奪う。許して欲しい、触りたい、許して欲しい、愛したい、許して欲しい、自分のものにしたい、許して欲しい。許さない。
 嘘つきの二枚舌、お前の思ってるとおりにいくもんか。口の中で淫らに蠢く舌に歯を立てて、鉄の味。男の装いを取り払った今だけ、知らしめてやる。明日になったら、装いにくるんで知らないふりをしてやる。


 
ずっと好きだったなんて、嘘。そんな嘘、つかないでくれたらよかったのに。







九月八日計画名残、自作お題"男装"

2005/9/8  ナミコ