君の名前を呼んだ後に






 お前の名前「エイト、」を呼んだ後に、掠めていくこの気持ちはなんだ。むず痒いような焦燥?どうだかな、オレは何を「エイト」焦っていると言うんだ。ホラ、「エイト」名前を呼べば此方を見る、小さく笑えば微笑み返す、しあわせ「エイト」だろう。手を伸ばして頬を包み込み柔らかに「エイト」キスを落として。抱きしめた身体、肩口に埋まる頭を抱え込んで離さないように。

 抱きしめてキスをしてこの腕におさまる少年「エイト」が愛しくて大好きで堪らなくてそれだけで充分しあわせなんだって言い切れちゃうんだぜぇ、本当にさ。なのになんなの、このフラストレーション!!!押さえつけて滅茶苦茶にしてどこでも自由に行くお前が好きなんだと思いながら無理矢理その自由すら奪ってお前の澄んだ目に映るのはオレ、どんなに荒んでいったっていつまでもオレを、映し続けてと、なんて傲慢!!!「エイト」こんな狂気の心を知っている?恋は「エイト」愛は「エイト」オレを狂わしてくよ、信じらんないくらい「エイト」愛してる。

 狂気すら優しさ「エイト」に包んで隠して「エイト」お前の名前を呼ぶ。
















「エーイトー」
 名前を呼んで後ろから抱きしめて耳元で囁くように冗談を言う。
 お前は笑って小さく身を捩るけど、それを嫌がったりなんかしないで、回した腕にそっと掌を添えて、くすくす笑い。

 見てくれこんなの、オレ達って理想の恋人同士みたいな。羨ましいだろうなんて、誰にでも見せつけたくなるような。





 ありがとうと、ありがとうと、ありがとうと。

 出会えたことに、好きになったことに、想いを返したもらえたことに伝えきれぬ感謝を感じて、信心の欠片もなかったオレだけれど、はじめて神に感謝した。
 しあわせすぎて涙さえ滲んで、出会えてよかった、好きになってよかった、想いを返してもらえてよかった。本当によかった。
 ありがとうと、あの青空の向こう、星々が煌く場所の、さらに向こう。そこにカミサマがいるかなんかわかんないけど(ああ、でも神の教えには神は信心者の心に常にいるんだっけ、でもオレは一番高い場所にいるような気がする)、届くようにこの気持ちを祈るから。どうか。

 ずっと一緒に。











ボーイミーツボーイ






「オレにしか使えない魔法がある」と、自らをカリスマと称す男は言った。

 ああ、ミラクルムーンとかと口を滑らせて出た言葉にククールは違うと頭をふって答え、眉を顰めさせた。

「エイトにしかきかない、オレの魔法」

 ククールは柔らかにほほえんでオレのまぶたにくちづけた。まつげがククールの唇にあたって少し、くすぐったかった。
 かちりと重なる視線、アイスブルーの目は水のように深く、深遠をたたえながらゆらめいてオレを見ていた。



 あのときオレは馬鹿みたいに魔法なんていうククールを笑った。
 それなのに今、あのときのことを思い返して同じように笑えないオレは、あの魔法にかかってしまったかもしれなかった。






BUMBLE BEES






 涙をふいてちょーだい、なんてふざけて笑って白いハンケチーフを取り出してひらひら。あはは、ふざけんじゃねぇよ馬鹿野郎って力の限りの回し蹴り、そうそうそれでいーんじゃねぇ?さめざめと泣かれるよりよっぽどいーだろ、怒りに任せて涙ごとフッ飛ばしちまえ。ひらひら、毎回おんなじタイミングで繰り出される回し蹴りをくるり、翻って余韻に髪とリボンひらめかせてハイ、おしまい。このハンケチーフが気に入らなかったのかい、なんて笑って笑って笑って、ホラ、お前も苦々しそうに笑ったら、それで終いだ。昼間っからシケたツラしてんじゃねぇよ。夜になったらうんと甘えさしてやって、そんでもって泣き言も不安も全部聞いてやっからよ、全部全部ちゃんと受け止めて愛してるって言ってやっからよ、ホラ、リーダーのお前はしっかり前を見つめていたいんだろ。

 夜の帳が落ちたら、目を瞑ってなんも見えなくなるくらい愛してるって言ってやるよ。











拍手再録其の弐
2006/1/15     ナミコ