For Leaves(捏造も甚だしいマルチェロとミーティアのお話)と微妙にリンクしています。
なんだかエイト→ミーティアでもありました。
クク主とか言ってるけどそんなことはないかもしんない。



※※まー、どうぞお心の広い方のみ御覧下さい※※



































For Leaves クク主裏話








「はて、ミーティアはどこへ行ったのかの」

 王がぐるりと広間を見渡せど、そこに姫の姿はなかった。穏やかな春の風がふんわりと漂う広間の中心で、そこにいる者たち皆が目で姫を探した。どこにもいない。気配を断つことがまた殊更うまくなったなと、少し頭を抱えたい気持ちになったけれど、それを面と向かっていえる立場ではない。幼い日、王に拾われ共に育ったとはいえ僕と姫は決定的に身分が違った。互いを知ることは出来ても、共に生きることは出来ないと思うのに、それでも姫は出切ると信じて止まない。いつまでも夢を見ているのだろうか、それともなにか確信できることがあるというのか、僕には分からない。けれどこうして姫が姿を消す時は決まって僕を呼んでいるのだ。来て、と。迎えに来て、と。きっとあの草原の丘で姫は待っているのだ、あのなんの隔たりもないのだと信じていた子供の頃のように。

「王、私が探しに行きましょう」
「うむ」

 こくりと頷く王に一礼し、広間から退室する。モンスターもそこそこに徘徊する外へ一人で行くなどやめて欲しいと常から言っているのに、大丈夫だと笑う自信は一体どこから来るのか。姿に合わず、意外とお転婆な振る舞いは近しいものしか知らない―――それは多分、王と乳母と僕くらいのもので。それに少なからずとも喜びを抱くことは不謹慎なのだろうと、今では思う。姫と僕はあまりに違いすぎる。だから姫を思う気持ちは憧憬なのだとあらためて認識し、正面の扉を開けては馬舎へ向かった。

「それには及びません、衛兵殿」
「わっ、!?」

 走り出し向こうへ行こうとした身体は、急につかまれた腕のあたりを支点に一瞬つんのめり、反動の後に後ろへ返っていった。ましてやそれなりに重量のある鎧のせいで崩れてしまったバランスだ、兵士にあるまじき情けなさが羞恥となって一気に身体中を駆け巡った。

「なんですかいきなり、」

 振り返って息を呑む。陽の光に透かされた髪が、目が、まるでこの世のものではないほどに美しく光っている。なにか神秘的なものを目にした気分で、神に愛されるものとはこういう人の事を言うのだと、思ったそれはすんなりととけるように浸透していった。

「すみませんでした。まさかこんなに細いとは思いませんで」
「…………はぁ?」

 キレイな顔、と微笑み。からなにかそぐわない言葉を聞いたような気がしてもう一度まじまじと顔を見た。聖人君子そのものを目の前にしている、と思っていたのに目の前の聖騎士はにやりと口角をあげ、不敵に笑った。

「お姫さまは我が騎士団長殿がお迎えに行きましたよ」
「―――――、貴方は」

 なにか言いようのないものがこみ上げて、不信感に一歩下がった。下がったと思えば一歩、と聖騎士は歩を進めて。一歩、一歩、とゆけばいずれ辿りつく、背中に壁の感触だ。おかしい、なにか、が。蒼を基調とするローブをまとう僧正と騎士たちと、それとは異質の色を持つこの騎士は。

「私は騎士団のククール。お初にお目にかかります」

 レディ、と。その口がそう言って。その形の良い唇がそう言って。手を取り。指先に。爪先に。そっと。唇が触れるのを見て血が昇った。いわゆるそれは、恥ずかしい、とかそういうものではなく、激昂だったのだけれど。

「よろしければ貴方の名前を教えてくださいませんか」

 なにを勘違いしたかこの騎士殿は、羞恥に震えている恋も何も知らない女兵士だとでも思っている僕の指を手に取ったままにこりと極上の笑みを浮かべていて。

 こういう男のことを、天使のような顔した悪魔みたいな奴、と言うのだろうと思った。



 思ったときには手にした剣の柄で思い切り腹を突いてやっていたけれども。

「―――僕は男だっ」

 苦しげに戦く騎士は、地に伏せそうになりながらもひゅう、と喉を鳴らす。強く風が吹いた、丘から舞った白い花の花弁がゆらゆらと目に映る。けれど昇った血は下がらず尚熱くたぎるのはどうしてだろうか。迎えに行くのは僕の役目、見つけ出すのも僕の仕事、誰にも渡したくなどない。そう思って初めて、本当は心から姫を望んでいる自分をみつけてひどく羞恥した。怒りと羞恥がないまぜになって巡る。いっそ、そう。女だったのなら、こんな気持ち抱くこともなかっただろうに。

 遠く飛んでくる花弁が足元に散った。心がざわりと粟立ったのはなぜか。遠く、馬を駆る足音が聞こえる筈もないのに。

 噛み締めたくなる唇をじっと我慢して、きびすを返した。その腕を、また。

「――――男だって構わないんだけど、あんた可愛いし」

 また頭に血が昇るようなことを言われて、力任せに振り払う。けれど今度はもう敵わないのは、男だと認識されて扱われているからだ。扱われているだなんて、胸糞悪いけれど。

「あんたの名前、教えてくれよ」

 先ほどとは打って変わった言葉遣いじゃあないか、そうか、女の前では理想の男を演じてやるタイプか。聖職者なのに、軽薄な騎士だ。
 追いこめられた壁際で、自分よりもひとまわり以上大きな影に覆われて、その肩の向こうの丘を見る。聞こえるはずのない音、が近づいてるような気がした。でもそれは気のせいなのかもしれなかった。それでも耳に付く音は鳴り止まない。

「エイトだ……」
「ふうん、エイト、ね」

 品定めするような視線と、一瞬凪いだ世界が吹き上げられるように風を運んだ。そしてむせかえるようなシロツメクサの甘い香りが。





 私を思って、と。呵責するのは姫かこの騎士か、それとも。












2006/2/17     ナミコ