花に抱かれて眠る兄を見て、なんて美しいのだと、涙が零れた。沈黙と静寂。なにも語らぬ兄は清らかに固く目を瞑ったまま胸に手を組み棺の中に納まっていく。参列者から埋もれるほどに花を頂いて、埋まっていく、花葬。その鼓動が二度と動き出さないことも、復活の呪文を唱えるには遅すぎることを、知っていてもなお。死を悼みながらその死を徹底的に否定しようとしている私は一体何なのだろうか。持ち出した古くからの魔道書の、ぼろぼろに崩れたページから必死に読み取った呪文、私は僧侶ではなかったけれど、それでも多少の魔法は使えるからなんて。
 唱えた呪文になんの反応も返さない掌に、自分の力に、結局私は泣き崩れ、現実を、認めざるを得なかったけれど。
 まるで生きてる頃と変わらず笑うのに、笑っているのに、冷たい花に埋もれた冷たいあなた。もうこんな思いなんて、二度としたくないって思ったのに。あなただったらだいじょうぶって思ったのに。

 あの頃から数段数十倍とついた力だけれど、それでもまだ、私の力には及ばない。冷たいあなたを取り戻す力を私は持たない。それがとても悲しくて、どうしようもなかった。