「好き・な、トコロ?」
 そう、とククールは形のいい唇をかたどった。その口からつむぎだされる言葉はさりげなくも甘めなテノールボイス。まだアルトの音域を出ない、自分の・とは違う音。
「お前は、オレのどんなとこが好きなわけ?」
 えぇと、とエイトは考える。好きな人を目の前に考える、好きな人の好きなところ。たぶんいちばんベタな答えはすべてが好きだとかそういうのなんだろう、いいところも悪いところもすべて含めてその人が好きなんだと。けれどエイトはククールを好きだと思う反面、嫌いだと思うところもあった。それは誰にも打ち明けることもなく、ただ自分の胸のうちにしまいこんでいればいいと思っていたけれども。
「………顔」
 やや逡巡して、エイトはありきたりな答えを述べてみた。目の前にある端正な、顔。この地方では珍しい銀の髪と空色の目。吸い込まれるようなはかない色が、エイトはとても好きだった。
「顔だけかよ」
「…目も、あと髪とか」
 外見的要素をつらつらとあげれば、ますますにまして訝るような目を向ける。褒められるのは好きじゃなかっただろうか、それとも、外見なんてもてはやされすぎて、心に響かないとでもいうのだろうか。フイに拗ねるように顔を逸らして、眉間に皺を寄せた顔のまま明後日の方を見ていた。
「ククール」
 呼びかけてもそっぽを向いたまま、つむじを曲げてしまったらククールはもうなかなかそれを戻してはくれない。彼は、わかりやすいくらいにかたくなだった。そっと、いつもは自分から手を伸ばさないエイトが彼に触れても、その背に甘えるように寄り添っても、もう。がんこもの・とエイトはため息をつく。けれどそれは決して気配にも出さず、ただ心の中でそう思うだけにしておいた。かたくなな背中にぎゅう・としがみついて、ぽつぽつと独り言のように囁いて語ってやるのだ、ククールのこと・を。
「ぼくは君の好きなものを知っているよ」
 勝気で積極的な女の子。かわいくて髪の長い女の子。
「君のぼくの好きなところってなんだったっけ」