囚われ人・改






「いやだっ、やめろ!」
 にやにや笑う兵士たちは、必死に抵抗する俺のことなんてお構いなしに多勢に無勢で拘束して、屈服させられた。

「可愛い顔してるよな、ほんと」
「女みたいだぜ」

 両手足拘束されて顔を掴まれる。薄暗い地下で炎だけが揺らめきながらほの暗くあたりを照らしていた。恐らくリーダー格であろういちばん体格のいい兵士が、見定めるようにレヴンの顔を覗きこんでる。せめてもの反撃に頭突きでも食らわせられないかと、思いっきり身体を突き出そうとするが、拘束された手足のせいでそれもままならない。ただきつく睨むことしか出来ない状態に、レヴンは屈辱を感じた。

「ハハッ、威勢がいいな。大人しくしてりゃあ優しくしてやろうってもんだけど、これじゃ噛み千切られかねねえな」
 アレもってこいよ、と男が促すと、隣にいた兵士は奥の戸棚からなにか小さなビンのようなものを持ち出し、男にそれを渡した。
「ま、どうせ飲めっつっても飲まないだろうな」
 ははは、と男は布にそれを湿らせ、レヴンの口に放り込んだ。吐き出そうとするけども、顎を固定されそれは叶わない。
「強い薬だからさ、ちょっとでも入ったらこっちのもんなんだわ」
 むりやり押さえつけられたせいで、呼吸が乱れる。どうにか息を継ぎながら、やり過ごそうとするけれど、唾液にと湿った布が合わさって、言いようのない甘いなにかが、口の中を満たしていく。滴るように胃に落ちていくそれは熱くて、レヴンは額に汗をかいてきた。
「すぐよくなるさ」
 ようやく顎が解放されると、思い切りよくレヴンは布を吐きだした。ゴホ、ガハとむせると、こみ上げるように汗が噴出して来るような感覚と、異様な熱さを感じる。なにか変だ、と顔をあげて男を睨みつけようと思うが、目がかすんでうまく焦点をあわすことができない。呼吸をしようと思っても、うまく息が整わない。

「あ…」
 かすれる声、頭の意識と身体が二つに分かれて離される様な遠い感覚に、膝に力が入らない。男の手が伸びてきて身体を触ってくその感覚に、身体の芯が熱くなっていく。
「ひ、あ…、や、だ……!」
「はは、いいねえ」
 心と裏腹に違う反応を示す身体に、とまどいを隠せない。男たちはレヴンの身体から服を剥ぎ取り、四肢の自由を奪ったまま床に転がした。転がされた床のひんやりした冷たさが、気持ちいい。なのに、床に触れてる肌は熱く、刺激を求めていた。
「華奢な身体だな、細いだけじゃあないけど。これはこれでそそるぜ」
「アッ!」
 胸から下腹部にかけて、なぞるように触られ、声が出た。自分でも信じられないくらい高い声が出て、驚く。
「いい声してやがる。可愛がりがいがあんなぁ」
 ふう、と耳に息を吹きかけられ、それから首筋を舐められた。次々と上がる声に気をよくした男は、身体の様々な箇所を愛撫し始めた。そのひとつひとつが、電撃が走るかのような快感をもってしてレヴンの身体を駆け巡る。いつしかゆらゆらと腰は揺れ、その中心は昂ぶっていった。
「気持ちいいだろ、なぁ。だがイかせねえからな、お前がちゃんと大人しく言うこと聞かねえと、ダメだ」
 焦らすように昂ぶりには一切触らず、レブンを高めて震えさす。にやにやと笑う男はいかにも楽しそうにレヴンを見下ろし、自らのズボンを下ろし、その昂ぶりをレヴンの前に突きつけた。

「ほら、舐めるんだよ。口に含んで、うまそうにしゃぶれよ」
 大きい、とレヴンはただそう思った。それ以外何も考えられなくて、いわれたとおりそれを口に含んだ。
「おい、歯は立てるんじゃねえぞ」
 生温かいそれに下を這わせ、吸い込むようにしゃぶっていく。
「おお…いい…、いいぞ…」
 うっとりするような男の声が上から聞こえ、これでいいのかとさらに舌を転がせていく。
「ん、あ、やっ」
 がし、と顔を掴まれレヴンの都合などおかまいなしに男は腰を動かし、抜き差しを繰り返した。喉の奥まで突かれると苦しく、呼吸もままならない。ごほごほと咽ているのに、それでもなお男はそれを繰り返し、そしてレヴンの顔に射精した。白く濁った液体が、レヴンの顔を汚す。
「っは、髪のきれいな女の顔にぶっかけてやりたいと思ってたんだよ」
「ゴホッ、がはっ」
「ほーら、休んでないで舐めろよきれいに」
 白い精液の滴る先端を、男はぐい、とレヴンの顔に押しつけた。口を開けば挿入され、否応なしにレヴンはそれを舐め上げる。ねばついた苦い液体の味が舌に残ったが、構わずしゃぶれば男はまた見る見るうちにそれを昂ぶらせていった。

「最初の威勢はすっかりナリを潜めたようだな。まぁでもしょうがないか、お前も欲しいンだろ」
 男が手を伸ばし、レヴンの昂ぶりに手をかけた。
「あっ、」
 しなるように背中が仰け反り、身体が期待に疼いた。ゆるく緩慢にうごく手つきはまるでレヴンをいたぶっているかのようにも思えたが、実際そうなのだろう。
「本当に女だったらすぐハメてやるんだが、男だとまぁ面倒でな」
 ここに入れるんだぜ、とレヴンの後ろの蕾を突付き、男はにやりと笑った。ぞくり、と悪寒が背中を走る、けど。掌握されてる中心に翻弄され、レヴンの口からは絶え間なく嬌声が漏れていた。

「ほらまずは指だ…一本」
「あ、ああ、やぁ…」
 無理やりこじ開けられ入ってくる指の感覚に悪寒が止まらないくせに、はちきれんばかりに昂ぶりは興奮している。ゆっくり抜き差しされていけば、ふしぎと最初の悪寒は消え、痺れるような感覚に変わっていった。
 一本二本と増やされていけば、最後の方は腰が揺れてしまうほど気持ちよくて、レヴンはもう夢中でその感覚に頼っていた。
「淫乱かよ、こいつ。まぁ騒がれるよりいいけどよ」
 かき回していた指が急に抜けていって、レヴンはもの寂しいような足りないような気分になる、けどすぐに指とは比べ物にならないほどの質量が後ろからレヴンを突いてきた。
「ああ、いい!あ、ああ、」
 指では届くことのなかった奥の方に熱い昂ぶりが擦れるたび、激流のような快感に見舞われた。
「もっと、お…ねが、い、キモチいッ」
 自分が何を口走ってるのかもわからない、ただ欲にまみれて、流されて、力ずくのまま犯された。今度は中に出されて本当になにもかもがぐちゃぐちゃで、それでもそのときすがっていたのはただ快楽のみだった。

「なにをしているんだ?」
「ヒッ、た、隊長!!」

 熱のこもった地下に冷ややかな声が響いた。静かで澄んだ声だったけれど、言葉のそこかしこに圧が含まれていて、圧迫されるような雰囲気だった。レヴンをいいように嬲っていた兵士は突然たじろぎ、しどろもどろと言葉を繰り返す。
「ええと、その…なんていうか…これは」
「いいさ、わかっている。きれいななりをした罪人はすべからく餌食になるものだ」
「そう!そうなんです!」
「見つけたのが私で良かったな。もしもこれがグレイグだったらきっとお前は辺境警備にまわされていただろう」
「へ、へへ…ホメロス隊長もお楽しみで?」
「……失せろ」

 ひと際殺気のこもった言葉に「ヒッ、」と呻いた兵士は逃げるように脱ぎ捨てた服を手に、部屋からいなくなった。見張りの兵は他にもまだいたはずだが、ただならぬ気配と隊長、と呼ばれたこの男に気を使っているのかいつの間にかいなくなっていた。
「なんて様だ、悪魔の子よ」
 部屋の入り口近くに立っていた男はゆっくりレヴンに近づいてきた。たいまつの炎がゆっくりと男の顔を照らしていく。ああ、さっき王の横にいた金髪の方の兵士だ、とレヴンはぼんやりする頭の中で思った。
「あ、おねが…イッ、…ねが、…」
 でもそんなことは今のレヴンにはどうでもよくて、身体の奥から湧きあがる止まりようのない疼きをどうにかしてほしくて必死に手を伸ばした。
「厚かましい奴め」
 バシ、と容赦なく伸ばした手は払われた。代わりに伸びた白く細い手と指がレヴンの顎を掴む。
「女日照りの男どもの慰み者にされるのは、見目麗しい者に課せられた試練だな」
 ハハ、とシニカルに笑ったホメロスは薄く開くレヴンの口に指を突っ込み、舌を撫でた。なにをすればよかったのなんて、わからない。けど、そうすることが自然な気がして、レヴンは口の中にある指に舌を這わせた。水音を響かせ、舐めしゃぶり、さきほどの兵士に教え込まれたように舌を転がせた。

「薬が回りすぎてるな」
 小さく嘆息したホメロスは、空いたもう片方の手をレヴンの額に添えると小さく「キアリー」と呟いた。もやがかかった頭が少しだけクリアになるような、そんな感覚にレヴンは目の前のホメロスの顔をじっと見つめた。
「少しは意識がはっきりしただろう?」
「あ、…なん……で、」
 声を出そうとするけれど、でも明確な言葉はたどたどしく出てこない。意識が少しだけクリアになった気がするけれど、疼くような痺れが身体中に広がっていることをおおいに知ることになっただけのような気もする。
 きれいな人だな、と思った。しかしにっこりとホメロスは笑ってはいたが、その目の奥は冷たく冷え切った感情でレヴンを見ているような気がした。
「嬲るっていうのは、虐げなければ意味がないだろう」
 感情なく言い放ったホメロスは、掴んでいたレヴンの顎を躊躇なく離した。痺れを伴うレヴンは支えを失い、重力のままに床に倒れた。痛い、と思う。先ほどまでどんな刺激も快楽となって波のように身体中を駆け巡ったのに、だ。

「う、うう…」
「痛いか?なら良かった。お前を存分にいたぶることができるからな」
 ハハッ、と乾いた笑いと共に床に押さえつけられる。伏した身体の腰だけを掴まれ、四つん這いの姿で腰だけを高い位置で止められる。
「や、だぁ!」
「先ほどまでこれを懇願してただろうに」
 後ろを貫く質量に、レヴンは一瞬気が遠のきかけた。疼きは確かにそれを求めて中心を昂らせるくせに、容赦なく後ろを貫くそれの引き裂くような痛みは鋭い。激しく揺さぶられるたびに背中に当たる甲冑の冷たさや金属の当たる痛みも相乗してる。
「いた、い、痛い、いたぁい!」
「疼いて苦しいんだろう?手伝ってやるさ」
 乱暴に何度も貫かれ、それでも抗うことのできない状況にレヴンは拳を握りしめ必死に耐えた。痛みに涙も溢れたが、それもすするように噛みしめた。いたい、痛い。いつになったら終わるの、とひたすら考えているけれど、それでも不思議なことに身体の奥は疼いたままだ。痛いのに、奥まで貫かれると一瞬満たされるような快楽を得る。痛みと快楽が交互に波のように押し寄せてきて、レヴンをいたずらにいたぶっていく。
「あ、ああ…あ、」
「おい、ちょっと早いんじゃないか?」
 冷淡な声は素早くレヴンの昂ぶりに手を添え、その根元を強く握った。果てたいと思うそれを阻むように塞き止める。
「一人で楽になろうだなんて、卑怯だとは思わないのか」
「ごめ、んさなッ!おねが、い…お願、ッ、しま…」
「請うるばかりでお前は私になにをしてくれるというんだ?」

 冷ややかに見下ろす悪魔の子と呼ばれる勇者に、昼間行った村人たちの姿が重なる。泣き叫び逃げまどい、ただ懇願するだけの弱い者たち。焼き払い、皆殺しにするはずの村だったのに、後からついてきた英雄サマはそこまですることはないと救ってさしあげた。高尚な事をいうグレイグは城で拘束すると村人達を連行し始めたので、面倒事を嫌ったホメロスはさっさと一人引き上げて城に戻ってきたのだけれど、腹にくすぶらせた苛立ちはいまだ消えてはいない。

「私の元で一生奴隷としてこき使ってやろうか?それとも娼夫として死ぬまで地下牢に繋ぎ止めておこうか?ええ?」
 快楽を求めるでもない、ただ痛めつけるためだけにピストンを繰り返し、叩きつけるように突き上げた。「うう…」と、呻くような鳴き声と鼻をすする音がやけに癇に障って、ホメロスはレヴンの髪を鷲掴みにして引っ張り上げた。無理やり起こされたレヴンはあまり力の入らない手や肘でどうにか体重を支え、酷い仕打ちに耐えている。ねじりこむように奥の奥まで突き刺せば、レヴンの身体は一瞬強張ってそれから果てた。白い白濁した液体が床に散らばるのを見て、ああ、塞き止めてた手で髪を掴んでしまったのか、とホメロスは舌打ちをした。

 まぁでも、完全に消えたわけではないけど、少しは苛立ちの捌け口として役に立ったのかもしれない。ホメロスはねじりこんだそれを引き抜くと、弛緩してへたりこむレヴンの身体を転がし、今度は口の中にそれを含ませた。ためらうことなく従順に舌を動かすレヴンに辟易としたホメロスは「ふん」と嘆息し、今度は優しくその髪に手を添えた。驚くくらいサラサラとした、美しい髪だった。

 苛々する気持ちを噛みしめながら、ホメロスは思った。
 どうせ手を伸ばしても届かないなら、光の中で生きる勇者も、英雄も、地に堕ちてしまえばいい、と。
 そうしたらこうも簡単に、手が届くのだから。





2017/9/2 ナミコ