囚われ人2







 地下牢の奥、鉄格子に阻まれて見ることは出来ないけれど気配でなんとなく分かっていた。

(またやってやがる)

 奥の部屋から聞こえる声は駄々漏れで、あちらの兵士どもはそこで何をしているのかなんて隠す気なんてこれっぽちもないのは分かりきっていた。キレイな見目の奴は、性別なんざ関係なしに性欲の捌け口にされるもんだ。さきほど向かいの牢屋に連れてこられた男がそうだった。暗くてよくは見えなかったが、一瞬女かと思うくらいにカワイイ顔をしていたからきっと、目をつけられてたんだろうな。上のおえらい騎士たちがいなくなると、あっという間に連れて行かれた。なにをしたかなんてのは知りもしないが、でも連れてかれた先でされることは洗礼みたいなもんだ。犯され嬲られ、堕とされる。運良くそれを免れても、決して出ることのできない牢の中で男たちの狂宴を見せ付けられる。あっちの部屋にいちばん近いとこにいるガタイのいいおっさんは、鉄格子ギリギリに身体を押し付け、粘ついた息を荒げながら食い入るように耳をそばだてている。それを見て兵士たちは蔑み笑う。身動きの取れない者を組み敷き屈辱に犯しながら、だ。

(反吐が出るぜ)

 かくいうカミュも、はじめはその洗礼にあった。フードを目深にかぶり、人目を避けても見てる奴はいるもんだ。むしこここの連中はそれしか楽しみがないのかもしれない。抵抗すれば薬で従順にされ、従順にしてれば際限なくつけあがる奴らだ。手足の自由さえ奪われてなければ、あんな奴らに負けはしないのに。
 しかし、不思議なことにカミュははじめの洗礼一度きりで、そのあとはなにもなかったのが救いだった。何故だかは分からないけれど、遠巻きにされるはありがたいと思う。しかし、だ。ここを出るときにチャンスがあるなら、あいつらの首掻っ切っていってやる、とも思っている。

「ん、あ、やっ」

 漏れ聞こえる艶っぽい嬌声に、カミュは本当に男だったか?と疑問が残る。同じようなことをされた身の上では声の主に同情を感じる気持ちのが大きいが、いかんせんカミュとて男なのだ。どうしたって生理的な反応をしてしまうのはいたし方ないことだと思う。…でも、ゴロツキ男みたいになりふり構わず性欲追っかけまわすほど落ちぶれちゃいないけども。




***




 ふらふら覚束ない足取りでそいつが元いた牢に戻されたのは、あれから随分時間が経ってからだった。好き勝手輪姦されたんだろう、泣き濡れた顔はぐしゃぐしゃでひどいもんだったが、それでもまだ憔悴した美人て感じで、ああこれは暫らくの間はやられ続けるだろうなってことは容易に想像できた。しばらくそいつは蹲っていたけれど、夜もだいぶ更けた頃静かに起き上がり、鉄格子を動かそうと躍起になっていた。

「おい、体力食うだけだからやめたほうがいいぜ」
 明日もあいつらの相手するならしんどいぜ、とは喉まで出たが言わずに置いておいた。あれの屈辱を知ってるなら激昂してもおかしくないからだ。しかしそいつはカミュの言葉を聞いているのかいないのか、必死な面持ちで抜け道はないかと動き回っている。
「おい、ってば」
「うるせえぞ!」
 ガシャン、と威嚇するように兵士が鉄格子を槍で叩いた。地下に響く大きい音に、さきほどのあれもあってか、そいつは身体を震わせ奥の方に後ずさりしていった。
「かわい子ちゃん、明日もたっぷり可愛がってやんからな」
 にやにやした顔つきで兵士は舐めるようにそいつを見ていた。なみだ目で腰を床に落としたそいつの顔が青褪めて見えたのは暗い牢の中、というだけではない。
「…このゲス野郎」
「ああ!?」
 ぽそっと呟いたはずの声はこの地下では思いのほか響いたらしく、兵士の耳にしっかり届いたらしい。
「調子に乗ってんじゃねえぞ!」
 一転してこちらに怒気を向けた兵士が、力任せに槍を振り下ろす。ばっかだよな、そんなことしたってこっちは痛くも痒くもないっていうのに。

「明日と言わず今からお前をヤッてやろうか?」
「…やってみろよ」

 静かにカミュはそう言い、目深にかぶったフードを取り払った。自画自賛するわけではないが、これでも顔は悪くないほうだとは思っている。
「へえ、お前もなかなか…」
 値踏みするように行き来する視線に、カミュは巧みな笑顔を貼り付けて兵士に近付いた。
「あんたらがヤッてんの聞いて、興奮しちゃったんだよね」
 たくさんは無理だけど、あんただけならなにやってもいいよ、としたり顔で近付いてみせる。兵士は気をよくしたのか「そうかそうか」と呟くと懐の鍵を取り出し、カミュの牢の扉をあけた。
 ばっかじゃないの、こいつ。やすやすと鍵あけて入り込んで、さ。
「可愛がってやるからな…」
 するりと回された腕にたまらない嫌悪感を抱きながら、殺意のままにみぞおちを蹴り上げる。たじろぐ兵士に今度は急所を追撃して床に伏せさせた。
「ばーか、この変態ゲス野郎」
 伸ばした腕で思いっきり首を掴み上げて見下ろしてやる。
「ここ、潰せば死んじゃうよな」
 はは、と乾いた笑いで見下ろしながら思いっきり力を込めれば、声にならない声をあげて手足をもがき始めた。さっきまで自分らがやってたことってこれとなんら変わりゃあしないのにな、と心底呆れた気分になるが、それをやめようという気は起きるはずがなくて。
「はは」
 笑いながら力を込めていけば、勝手に泡吹いて気絶しやがった。小心者かよ、だらしがねえな。もう一度蹴り上げて縛り上げ、カミュはとっとと保管されてた自分の荷物を拝借すると、落ちていた鍵束を拾い、ついでに向かいの牢のそいつの扉も開けた。

「お前のだろ、それ」
 ほらよ、と荷物を渡すと、おびえたような目でこちらを見上げた。やっぱり美人だな、なんて全然関係ないことを思いながら。
「逃げる逃げないは自由だけどよ、このままいたらさっきの二の舞だぜ」
 お前もいこーぜ、なんて手を差し伸べて、立ち上がらせた。華奢だけどまあ、男だわな、なんて思ったりもした。





***




 無事地下から脱出できて、滝から落ちたときはもうだめかと思ったけど、かえってふたりの絆…というか仲間意識は強くなった気がする。
 意識を取り戻した後のレヴンはなんていうの?こー…猫になつかれたような感覚で。悪い気はしなかったが、お前そんなに俺のこと信用していいのかよっていう思いもあったのはたしかだ。

 だからつい、あの薬の余韻に煩わされてるレヴンに意地悪なことをいったんだ。

「手伝ってやろーか?」

 びくり、と身体を震わすレヴンが傷ついたような、そんな顔でカミュを見た。でもカミュだってわかっていたのだ、あの薬がじわじわともたらす疼きが、とうてい一人では抑えようがないものだということを知っていたから。…カミュは隠し持っていたナイフで自らを傷つけながらどうにかやり過ごしたけれども。でも、この甘っちょろい勇者様はきっとそんなこと考えもつかなさそうな気がする。

「………」
 押し黙るレヴンに、カミュは近付いて額から頭を撫で上げた。汗で滲んだ額に、キレイな髪が張り付いててやけに色っぽい。こいつが本当に女だったらマジでやばかったかもしれないな、なんて考えながら、カミュは腹を括って冗談ぽくこう言った。
「お前がどーしてもっつうんだったら、オレのケツだって貸してやんよ」
 それともバニーのねーちゃん呼んでこようか?なんて笑いながら言ったら、身体を強張らせていたレヴンはくすくすと笑い出して零れんばかりの笑みをこちらに向けた。それどうしてこんなに動揺するのか、カミュは自分が不思議でどうしようもなかった。

「手伝って…」
 お願い、と。懇願するような切なさをたずさえた表情で、レヴンはカミュのズボンに手をかけた。もどかしそうな手つきでベルトを外すとジッパーを下げ、その下にあるふくらみを口に含んだ。あたたかく柔らかい咥内でレヴンはそれをしゃぶりあげた。ぞく、とそこから身体を走る気持ちよさにカミュは口端を噛んだ。手と舌をふんだんに使って夢中で舐めるレヴンの頭にそっと手を触れる。
「キミのコレ、ナカにイれてほしい」
「−−−わーったよ、相棒」
 一度は入れられてもまぁいいか、なんて思ったりもしたけれど、やっぱどちらかというとカミュは入れられるより入れたいとは思ってはいて。
「そのまま、舐めてて」
「ん、」
 恍惚とそれを口に含むレヴンの身体に手を伸ばし、カミュもレヴンの昂ぶりに手を添えた。熱く硬度を増しているそれを上下にしごくと、先走りで濡れたそれはビクビクと痙攣し、あっけなく果てた。薬のせいでもあるのだろう、完全に抜けるまでは何度イッても物足りないはずだ。精液まみれの性器は今イッたとは思えないほどに、硬くなってきている。

「指、入れるぞ」
 つんつん、と蕾を突付けば飲み込むようにカミュの指が入っていく。どんだけ輪姦されたんだよ、とも思うが、それは思い出さないことにしてゆっくりと抜き差しを始めた。
「あ、ああん、ああ…」
 ゆらゆら腰を揺らし、レヴンは身体を震えさした。フェラしていたはずの手も口も今はおざなりで、与えられる快楽を夢中で貪っているのだろう。
「おれの指、そんなに気持ちいいのかよ?」
「キモチイッ、もっと、…もっとしてぇ」
 奔放に思いのまま乱れる姿に、グッとくる。もっと気持ちよくさせてやりたいだなんて思って、本格的に組み敷くために一旦指を抜いたら「アッ」と声が上がった。それすら感じるというのか。カミュはレブンに覆いかぶさり、キスを施した。胸の奥からこみ上げるような熱い思いに、翻弄させられる。糸を引くほど長くねっとりと舌を絡み合わせて、耳に、首筋に、と舌を這わせる。ちろちろと舌先で辿るだけだというのにレヴンの甘い声は止むことなく漏れ続ける。ぷっくりとした乳首は火照ってるせいか、ほのかにピンク色でいっそうエロくみえた。舐め回すように舌を這わせると、大きく背をしならせのけぞった。
「はぁん、それ、だめえ」
 いやいやと、首を振るせぐさが可愛くて、カミュはそれを口に含んだまま舌で転がした。
「イッちゃう、イッちゃうからぁ!」
「いーよ、イッて。レヴンがよがってるとこ見せてくれよ」
 ちゅうう、と強めに吸い付けば、びくびく身体を弛緩させて二度目の射精をした。肩で息をしているのか、それともそれすら嬌声なのか、分からない。けれどレヴンの顔は恍惚と上気していている。

「まだ足りてない、よな?」
 つつ、とおなかの辺りを撫でれば「お願い…」と繰り返し、切なそうにカミュを見上げ、腰を揺らした。
「ナカでキモチよくなりたい…」
 膝を曲げ、自分で蕾を広げながらレヴンはカミュを誘った。ここに入れて欲しいのだと示すように自らの指を入れて見せる。
「ココ、ここぉ、カミュの、入れてえ」
 もっとたくさんよがらせてから入れたかったんだけどな、とも思うが、いかんせん普通の状態ではないレヴンにいつまでもお預けというのは酷過ぎるか、とカミュは自らの指で蕾を引っかきまわすレヴンのえっちな指を静止し、自らの昂ぶりを押し当てた。
「あ、」
 期待にこもった甘い声と目がカミュを下から見上げている。押し当てたそれでそのまま力強く一気に突き上げると、悲鳴にも似た声がレヴンからあがった。しまったいきなりすぎたか、と心配するが、ぶるぶる身体を振るわせているレヴンは「もっと、もっと」とせがんでいた。大丈夫なのかと思うが、狭い、後ろの穴にぎゅうぎゅうと締め付けられてはこっちがもたない。ゆるゆると抜いては叩きつけるように突き上げれば弛緩するレヴンに、これがいわゆるアナルイキってやつなのか?とも思ったが、最中に確かめるほど野暮ではなかったのでひたすらピストンを繰り返した。

「カミュ、すき、だいすき、もっとしてっ!」

 不意にレヴンの口から聞こえた言葉にドキッとする。好きって、おまえ、なぁ。なに言ってんだよ、という言葉とそれとは正反対のなにかこみ上げるような気持ちに翻弄されたのはカミュで、もっと我慢するはずがうっかり中に出してしまった。
「わり、レヴン」
「…おなかの中でカミュのがドクドクいってた」
 うれしいって続いたレヴンの声に顔を覆いたくなるような気恥ずかしさと、なんだ、これは。
「おまえ、オレのこと好きなの?」
「好きだよ、好きに決まってる」

 あんなことがあったから、ほんとはこういうのちょっと怖いって思ってたけど、とレヴンは続ける。そうだな、手伝う?って聞いたとき身体強張らせてたもんな。

「キミ、優しいから。全部吹き飛んだ、キミなら大丈夫って思えた」

 下から伸びた手がカミュに絡みつき、深く深いキスを強請る。息も継がない長いキスはカミュを押し倒し、形勢逆転今度はレヴンが上に乗った。

「もっと気持ちよくなろ、一緒に」
 ぎゅうぎゅうと擦り上げたカミュの昂ぶりを、今度は自ら押し当て飲み込んでいく。食い殺されるかもしれない、という心配が気持ちよさの向こう側に霞んで行く。でもこのカミュの上でいやらしく腰を振るユウシャサマのなんてエロいことなんだろう。もうどうでもいいや、と難しいことを考える思考は手放してこみ上げる快感を、ふたりはお互いに貪りあった。






2017/8/14 ナミコ