3 海岸にて





―――このひどい惨劇を見ても、それでも恨んではいけないと、いうの?

 言われるがままに行った先で悪魔の子と蔑まれ、捕らえられ、悪夢のような出来事にさらされた。ようやくそれから逃れて故郷に戻ってきたというのに、あいつらはこの場所すら焼き払い、なきものにした。焦げたにおいが鼻につく。ほんのついこないだまでは、水と緑と太陽のにおいの溢れる村だったのに。腹の奥から湧きあがるどす黒い気持ちが、じいちゃんの言葉に押さえつけられる。なきたい、さけびたい、心のままに報復をしてやりたい、のに。
 段々と苦しくなる呼吸に、首を押さえる。息がうまく吸えない。

「どーした、レヴン」
 聞こえる声に縋るようにそちらを見た。優しい人、ぼくの光。あの暗い地下牢から、一緒に手を取り逃げてくれた人。
「汗かいてるぜ?」
「ん、」
 伸びた手が優しく額を撫で、それから前髪をかきわけ僕を覗き込んだ。あっというまに近付く顔が、ちゅう、と唇に近付いて離れていった。しびれるような甘さでもって、カミュのキスはレヴンの心を落ち着ける。いや、逆かもしれない。安心と、ざわざわするような期待感。その先を想像しては、身体の奥を熱くさせる。

「カミュ」
 離れた唇を追いかけて、レヴンはカミュに口づけた。その先を望むように、ぺろり、艶かしく唇を舐めて。
「お前はすぐそーやって、煽る」
 照れくさそうに笑ったカミュは、つん、とレヴンの額をつつき、その服に手をかけた。上半身を堅く守るバックルを丁寧に外していく。
「外なんだけど?」
「うん」
 レヴンはこくんと頷いた。海を一望できる草原で、たき火に照らされながら生まれたままの姿で愛し合いたい。街は遠く、人目に晒されることもないだろう。海辺に小屋があったことは気にならなくはないが、距離と暗闇できっと見えないと思うから。
 外套を一枚脱いで、それからカミュはズボンに手をかけた。さげたジッパーの隙間から堅くなりかけのそれを取り出すと、やわやわと揉みしだく。

「んっ、」
「今日は一緒に気持ちよくなろーぜ」
 よいしょ、と一瞬腰を浮かせたカミュは、すばやく自分もジッパーを下げて自らのものも取り出す。腰を寄せ、取り出したそれぞれのものをまとめて掴み上げ、上下にしごいた。
「こーやってあわせて扱くとまた、気持ちイーだろ」
「ん、あっ」
 カミュの手で扱かれていく感覚と、カミュのが触れてる部分が違った感覚の刺激を与えていく。やわらかかったそれが、硬さを増していく感覚に言いようのない充足感を感じる。
「な、レヴン。お前ちょっと扱いてみろよ」
 ほら、と促されてレヴンはそれを握った。ゆっくり上下に扱けば、自分でやるそれと似ているのに違う、なにか背徳的な感覚に背筋がぞくぞくする。
「なんて顔してんだよ、えっろい。気持ちいーの?」
「ん、気持ちいいよ…カミュ」
「じゃあそのまま…片方の手で自分の胸、いじって見せて」
「あ、ん……こ、こうか、な?」

 くるくる、と指先でレヴンは自分の乳首をなぞってみせる。ほんの軽くさわったそれなのに、思った以上に気持ちよくて爪を立ててしまった。カリ、とひっかくような強い感覚にびくりと身体を疎ませるが感じたのは痺れるような気持ちよさだった。

「つまんで、そう…ぎゅうって」
「あ、ああ…ん、あ…」
 つまんで、こねくり回して、胸だけじゃたりないから、もう片方の手は夢中で高ぶりを扱いた。

「レヴンの乳首勃ってきたな。吸って欲しいって言ってるみたいだぜ?」
「あ、吸って…カミュにちゅうって、してほしい…」
「はいはい」
 言われるままカミュはレヴンの乳首に口を寄せた。

「ああん、ああ、あっ」
 自分の手からもたされるより何倍もの快感で、刺激が与えられる。吸い付き、舌のざらざらした感触がすごい。尖らせた舌で乳首はぐりぐり舐めまわされ、レヴンは思わずのけぞった。捩った身体はそれから逃れようとしているようにも見えるのに、のけぞったせいでさらに突き出すような形になってしまっているからどうしようもない。添えたカミュの手が逃がさない、とでもいうかのようにガッチリ固定してさらに執拗に舐め攻める。

「ああっ、カミュッ、ん、んんッ」

 扱いていたはずの手は無意識で強くカミュを求めて、その頭を抱きかかえるように引き寄せていた。とがった薄い水色の髪。なのに触るとやわらかくて、風のようにも思えた。

「カミュ、すき…」
 こぼれるように、それくらい当たり前に、言葉はぽつんと飛び出した。一瞬面食らったカミュは次の瞬間こぼれるように笑った。

「運命だよな」
 と。その言葉がなにより胸を熱くさせていく。
 悲しいことも、苦しいことも、すべて昇りつめて昇華していってしまうのはきっとカミュがいたからだ。

「あッ」
 みだらに伸びたカミュの手淫がレヴンを高みまで上りつめさせた。したり顔のカミュが弛緩するレヴンのそれに、優しくゆっくり手を添えていて。
「一緒にって言ったけど、やっぱ俺、オマエのイキ顔見んの好きなんだよな」
 いたずらに笑うカミュに胸がドキドキさせられる。
「ずるい、そんなの」
「なにがだよ? …なんなら今度はオマエのここで、俺をイかせて」

 やらしい顔つきで膝を持ち上げたカミュはそのままの勢いで、昂ぶりをレヴンの蕾に押し当てた。ゆっくり押し入るそれに声にならない声を上げて、レヴンは首を振る。気持ちよくて眩暈がしそうだった、けど、もっとずっとカミュの顔も見ていたくて、必死にこらえて目を開けていた。苦悶するカミュの表情は色っぽくて、腰から背中にかけてぞくぞくするような快感を這い上がらせる。

「カミュッ」
 手を伸ばせば合わさるカミュの手が、優しくレヴンの手を握る。指と指を絡めて愛おしそうに口づけて、身体の深いところで繋がって、満たされる。
 身体の奥からわきあがる暗い感情も、恨みも、憎しみも、全部溶けていってしまいそうになるから、びっくりする。カミュがいてくれたから、だよね。

 はぁはぁ、と肩で息をして、わらの上に寝転がる。ちくちくと肌にささるわらがくすぐったいけど、そんなの気にかけてられなくらい身体はぐったりと、疲れてるから。
「はー、疲れた。けど、元気出たみたいだな?」
 ぐいぐい人差し指でレヴンの眉間を撫でたカミュは、そのあと額に口づけた。
「言いたくないなら言わなくてもいいけど、ガマンすんなよ」
「…うん」

 優しいカミュがすきで、好きで。ひどいことする人もいるのに、カミュはこんなに優しくて、大事で、いとおしくて。だからあんなに苦しかった呼吸も、カミュが隣にいるだけでこんなにもラクになるんだなって、そう思うんだ。





2017/8/24 ナミコ