アフター ザ セントバレンタインズデイ

無駄な攻防






抱えきれないと言うほどでもないけど、結構な量のバラの花(リボンとメッセージ
カードがついてて、俗に花束と呼ばれる)をスリザリン男子寮の一室の前で見て、私は仁王立ちをしていた
「いくらなんでも・・・・これは・・・ねぇ・・・・」
しゃがみこんで、覗き込む
もう、ドライフラワーだし・・・・
今月の14日はバレンタインデーだった
「ちょっと気になるあの人にプレゼント☆」な日だ、つまり、乙女イベントって事だった
「・・・・もう意味、無いんじゃない?」
かさかさに乾燥してしまった もとは瑞々しい生花だった赤かったバラの花を指でついてみる
今はもう茶色い薄い花びらがぼろぼろと形を崩すだけだ
「もったいない・・・・」
とりあえずその花束の銀色の水を通さない紙でつつまれている部分、つまり根元をもって、目的地であった部屋のドアを開けた

「ルシウス」短く部屋の主の名前を呼び2.3度、木製のドアをたたいた
机に向かって何か書き物(たぶん宿題、私もやらなきゃ)をしていた彼はその手を止め、体ごと顔をこちらに向けてわらった
「やあ、
「・・・・これ、いらないなら捨てるとか片付けるとかしたら?」
乾燥しきった花束を少し持ち上げて特に挨拶に答えるわけでもなく口を開いた
ぱらぱらとひからび落ちた破片が絨毯を汚す、繊維に細かく入り込んだ花粉はなかなか苦労するだろう
かわいそうに、しもべ妖精
「・・・・・いきなりそれか」彼は顔をしかめた
「かわいそうでしょ? 噂になってる」
気合を入れて育てたバラの花をきれいなリボンで束ねた
「俺には関係ない」
「関係ない?」
それを聖なる(聖なる?)バレンタイン氏(氏は法王だか誰だか、とにかくえらい人
に禁止されてもカップルを結婚させてあげた人だ)の命日に想う人へとプレゼントする(彼の命日がいつの間にか愛の日になった)
「なぜ、私がそのようなものの始末をしなければいけない」
「もらった時点で、それはもうあなたのものだもの」
ふう、と彼はわざとらしく金持ち特有のしぐさで溜め息をついた「・・・・私に渡そうとするのならば面と向かってしてくれ。それならば、その場で断れるのだが」
私は少し眉をひそめた(実際に彼は、バレンタインデイ当日にかなりの数の贈り物を拒否していた)
「嫌なやつ」そしてこっそりとつぶやいた

そんなバレンタインをきっかけとして、何かを彼にプレゼントしたい
でも、自分で直接わたす勇気はなくてカードを添えて彼の部屋の前に置いていった、良くある話だ
「・・・・・別に、いらない」
「うわさになってるの。いつあの花束が始末されるか」
ただ、もらったその人は花束になんて興味はなく、今日までずっと放置されている
「それがどうした」
「いたたまれないわ」
いまでは賭けの対象にまでなってる
「笑われて、騒がれて、『渡したのは誰だ』『身のほど知らずは誰だ』ってことになってる」ルシウスは表情を変えなかった
「とても、いたたまれないわ」彼女はくりかえした
「それで?」思い切り不機嫌な声で言った「それで、お前は俺にどうしてほしいんだ」
「そうね・・・」
腕を組んで考える
「とりあえずカードぐらい読んであげてもいいんじゃない?」
花束をルシウスにむけて突き出した
「カード、まだ花がそれなりに元気だったころは花の上におとなしくのっていたんだけど、今はもう埋もれてるわね」
「それを、探せと言うのか?」
「ええ」くりかえす「ええ、そうね」
露骨に嫌な顔をして彼は腕をまくった
アンゴラ(畜生、金持ちめ)のセーターについた乾いた花びらや枯葉は中々落ちない、薬草学でさんざん教わったことだ
「・・・・・これで、満足か?」茶色い花びらの破片のこびりついた白いカードを掴み、差し出した
私は腕を組んだまま答えた「読んで」今、すぐに
「差出人の書いていない手紙ほど不気味なものはない」
独り言のようにつぶやいてかさかさと二つ折りにされていたカードを開いた 
そこに手書きのメッセージを見つける
「Dear my “Dear”・・・いきなり親愛扱いされてもな・・・」
「いいから、黙って読む」
「・・・・わかった」しぶしぶと短いメッセージに目を走らせ彼は思い切り眉をひそめた「なんだこれは」
メッセージは短い一文だけだった  
「さあ?」一方、私の方眉は器用にはねた
「さあ、なんでしょうね?」
「何が言いたい」彼はきっと今 不機嫌な状態だ
「いったでしょ? 賭けの対象になってるって」
にこりと笑いカードを彼の手からひったくった「今日、あなたがこの花束を片付けると私の一人勝ちなのよね」
さらに口のはしを上げて笑う「明日だと、別の子と半分の配当金になるの」
「・・・・賭けの対象に手を出すのはルール違反じゃないのか?」なんだかよくわからない表情で彼は言った
「たぶんね」私は苦笑した「たぶん、ばれたら失格になるでしょうね」肩をすくめる
「では、なぜ」私はふにゃりと笑った「・・・・教えてあげない」彼は顎に手を当て、何かを考えているふうだった
くるりと彼の顔から視線をはずし、この居心地の悪い部屋を出て行こうとドアのほうへ足を向けた
「まて」
ぐっと肩を掴まれ、半ば無理やりに振り向かされる「なに?」
キレぎみに言葉を返した「なによ?」
「返してくれ」私の右手に力の限り握られてしわくちゃになったカードを目で指して言った「その、カード」
「どうして」顔を見れない、ていうか私は見られたくない状況の顔だった「べつに、いらないんでしょう?!」
「・・・・・見覚えがある」右手を力をこめて私は握りなおした
「筆跡に、見覚えがある」このまま、私の手の中で消滅してしまえばいいのに「また、読みたくなった」
「嫌」
「どうしてだ?」
「嫌」
「・・・・・お前のカードだろう それ」
力をこめるでもなく、彼は私の右手首をつかんだ
「読ませてほしい」
聞いたことのない普通の口調(彼の言葉にはいつも無意味に制圧とか抑圧な力が込め
られているように聞こえる)に驚いて思わず右手のひらの力を抜いた
くしゃくしゃになったカードが手からはなれ落ち、音も立てずに床へ落ちた
彼がそのカードを拾おうとかがんだときに私の口の端から言葉がすべり出た
「i guss, you will in love with me. 」
なんども検討した言葉だ、一語一句すべて私の頭の中に残っていた
「・・・・・will」彼はそれだけ言って立ち上がった
カードの皺を丁寧に伸ばし、また開いた 書かれた文をゆっくり指でなぞる
「これからは、どんなものもすぐに中を見てみることにしよう」
こびりついていた花びらの干からびた破片も払い落とす

「で、どうなの?」
ばつのわるい表情の私は、つとめて冷静を気取って返事を待った
「さあ」意地の悪い顔で笑った「さあ、どうだろうな?」
下を向いて目を閉じる こみ上げてくる笑いはこらえられそうにない
不敵なほほえみを添えて「さあ、どうだろうな」彼はくりかえした
「どうしたい?」手首と腰を捕まえられたままで聞かれる
この状況で“何”をしたいかなんて聞くまでもないでしょうに
「あなたは、どうしたいの?」ここまできたら、できるだけはぐらかしてやる
「・・・・それを俺に聞くのか」
彼は意外そうな顔を寄せてきた ああ、デコをくっつけるでない。
「先に、聞いてきたのはそっちでしょうが」
・・・・・・持久戦て、嫌いなんですけど
「そうか、それならば仕方がない。君が何も望まないのなら、この手を離そうと思うのだがそれでも良いか?」
と私の身体に当てられた手の圧力を若干強め、聞いた
随分と自分に自信がおありになるのね
「その手にはひっかからなくてよ、お好きになされば?」
私はそう言い放つとくすくすと笑った
彼はおもしろくなさそうな顔で名残惜しそうに(ッは!ザマ見やがれ)手を離した

・・・・ほしいものはちゃんと言わなきゃ手に入らなくてよこの自意識過剰男め
ああ、それは私にも言えることか・・・・
「じゃあ、また明日、授業で」
そういって颯爽と私は立ち去ろうとする
「ああ」
きもち残念そうに見える彼の表情を目の端で捉えにやりと笑った
ドアノブに手をかけたまま振り返る「残念?」思わず口に出た
「何だ?」眉を寄せた怪訝な表情が帰ってくる
「してあげましょうか」
「何をだ?」・・・・怪訝な表情は確信をもった笑みに変わる
「お望みなら」一呼吸おいて私は笑った「してあげてもよろしくてよ?」
「君が何をくわだてているかはわからないが・・・・」(嘘だ、絶対嘘だ。と私は心の中で思った)「君が望むのならば何なりとどうぞ」
そう言ってルシウスマルフォイ(かなり嫌な感じで)笑った
「えらそうに・・・・」
独り言のように口の中でつぶやいてドアノブから私は手を離した
そのまま前へ進めばルシウスの真正面に立てる
そうしたらそのまま目を閉じて顎を少し上げてねだればいい
簡単だ

でも私はそうはしなかった
もう、想像できる事をするのもつまらないでしょう?
うれしいことにこの部屋は金持ち仕様(スリザリンだからエコヒイキなんてめずらしくない)なので絨毯はかなり厚い上等なものだ
これなら別にダメージはないだろう
そう思いは・・・・・・
制服のミニのプリーツスカートをはいたは大胆にも足をふり上げ、
その足の裏の靴底をルシウスの腹のあたりにヒットさせ、彼を蹴り倒した
何か重いものが落ちたような(実際、落ちたんですけどね)どさっという音が部屋に響き、彼の身体は絨毯に沈んだ(っていうかうちつけられた)
・・・・毛足、長いからそんなには痛くないでしょう、たぶん
たぶんだけどね
「な、何をする!」
不意打ちに蹴られたのだ、しかも自分より明らかに力のない女に
「何って?」
上半身を起こそうとする彼を押さえつけるために、そのまま腹の上に足を置いたままにっと笑った
「どういうつもりだ」・・・・言葉が少し怒っている
「別に?ただやってみたかっただけ」
肩をすくめて見せる たぶん、彼の神経はさかなでされただろう
「その足を今すぐにどけろ」彼の声が荒くなる
「どけるけど、そのまま動かないでね」
「なぜだ」
「・・・・どうしても」
勤めて私は、真剣な声で言った
「保証はできない」
「じゃあ、どけない。おねがい、約束して?」
本当は、いつも気位が高いルシウスマルフォイを足蹴にしていると思うと笑いがこみ上げてきそうだったのだが
つとめて真剣な声で私は言った
「・・・・いいだろう、解った」
そんな私の真剣な態度に、納得のいかないようだがしぶしぶ彼は同意の意を表明した
「どうも、ありがたき幸せにございます」
一変、ふざけたように言った私に対して彼は「ふざけるな」と短く、怒るように言った

まあ、あたりまえだろう
「ふざけてなんかいないわ」
でも、私はこれでも真剣なんですよ
「どういう事だ」
私は彼の体の上から足をゆっくりと下ろし、絨毯の上に両足で立った
「まだ、まだよ」
動き出しそうな彼を目で(声で)制して私は彼の横にひざをついた
不思議そうな顔をする彼を無視してつづける
「目、閉じて」
彼の額にかかる色素の薄い髪を手でかるく流した
見上げてくる怪訝そうな視線を気にもしないでつづけた
指で額から鼻筋、くちびると顎をたどる
指はまだ彼の首筋をなでる 喉、鎖骨と鎖骨のあいだ
目をけして閉じずに(油断は禁物である、この男の場合)私は彼に触れるか触れないかの軽いキスをした

「i guss, you will in love with me. 」
歌うように彼の耳元でささやき、部屋を出て行こうと立ち上がった
「随分と、自信があるんだな」
とっくに起き上がって床にあぐらをかいた形で腰を下ろしていたルシウスが呼びかける
「まあね。」
ふりかえって答えよう

「だって、そうでしょ?」
だって貴方、すでに私に恋してるでしょう?
にたりと口の端を上げてみようか。
ルシウスも同じようににたりと笑う、その顔が、「お前もだろう」と示していて。
そうよ、私もよ。
だから、with me.


果てない攻防
欲しいものはちゃんと言わなきゃ手に入らないから、ね
そのまま駆け出してこの部屋から逃げ出す
ベッドサイドのチェスの上の貴方の大切な魔法の杖を手にして
!」
勢いよく閉まったドアの向こうから聞きなれた怒鳴り声が聞こえる
無視して私は男子寮のさらに奥の突き当たりの曲がり角に身を潜めた
すぐ不機嫌そうに怒った顔のルシウスが出てくる
まわりを一瞥してそれから男子寮の出口に向かっていく
私を追って、私を探し出すために

くすくす漏れる笑いを噛み締めて、私はルシウスの部屋に戻った
あなたは私の事を追いかけているつもりだから後ろなんて見ないでしょ?
つまり、貴方はここに戻ってこない
戻ってくるのは見つけられなくて疲れてあきらめてここに戻ってきたとき
どれだけ疲れて戻ってきてくれる?
ああ、楽しみだわ 慰めてほしい?
ルシウスの魔法の杖を机の上に戻して、そこから見える窓の外を眺める
いささか怒りで赤い顔に、いつもよりせかせかした足並みで早歩きをする彼の顔を容易に想像できた

ねぇ、舞台は用意してあげる
だから欲しいものは欲しいって言って

ふぁ、と大きくあくびして、私はシルクのベッドに潜り込んだ
仰向けで胸の上に手を組んで眠るから目覚めのキスは、王子様からして頂戴





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蒼伊様へ、キリリクとして。

バレンタインどころかホワイトデーもすぎてしまってとんでもなく季節はずれなんですけど・・・
2月下旬か3月上旬には書き上げるつもりだったんだけどなぁ

ほんとうに、遅くなって申し訳ありません 蒼伊様。
あーーー、どうでしょうか。
ルシウスで甘いドリというリクエストでしたよね。
もしかして大人ルシウスのほうがお望みでしたか?

長い間お待たせいたしました、どうか、お受け取りください:トラ


2003/3/25