ALWAYS LOOK ON THE BRIGHT SIDE OF LIFE 







 夜中にスネイプがスリザリン寮の談話室でぼんやりと本を読んでいると、天文学の教科書と羊皮紙を抱えたに拉致された。「宿題、すっかり忘れてたの」とあまり必死には見えない顔で彼女は言った。
「一人で出来ない量ではないだろう。明日は休日だし、ゆっくりやればいい」
「明日はホグズミートに行くの。宿題するヒマなんてないの」
「だからって何で俺が」
 スネイプは片手に飲みかけのマグを持ったまま、にもう片方の腕をつかまれて歩いていた。
「夜中に一人で外に出るなんて退屈でムリ!」
 スネイプは溜め息をついた。




「ね、明日のホグズミートどうするの。行く?」
 芝生の上に転がって星を見上げているがペンを羊皮紙にはしらせながら言った。
「12時をすぎたからもう今日だ」
「わるかったわね」
 そんなことより早く終わらせろ、まだ終わらないのか。と寒そうにローブの前をかきあわせるスネイプを無視しては続ける。
「どっちなの?」

「あいつらが行くなら行かない。あいつらが残るなら出かける」
 あいつらって、グリフィンドールのポッター達?とが訪ねると「そうだ」とスネイプはいまいましげうなずいた。
「あんた、自分の意志はないの?」
「あいつらとかかわりたくないのが俺の意思だ」
「あ、そう」 
「おまえは?」

「うーん」は喉をのけぞらせて空を見上げる。「あんたが行くなら出かける。あんたが行かないなら残る」
「おまえこそ意思はないのか」
 くつくつと喉の奥でスネイプは声を立てずに笑った。
「あんたと一緒にいるのが私の意思だわ」
 へらへらとはスネイプのほうを見て笑った。

「じゃあ、俺もおまえが行くなら行こう。おまえが行かないなら行かない」
「なにそれ、結局私はどうしたらいいのよ」
「自分できめろ」
 スネイプはにやりとのほうを見て笑った。

「あんたこそ自分できめなさいよ」
「俺には何の意思もないからな」
 ふたりで空を見上げた。横目での宿題を覗き見たスネイプは「まちがってる」と短く言った。



「のど渇いた、しかも寒い」
 どこがちがっているのかスネイプが教えてくれないので、最初からひとつずつ星を確かめているは彼のマグを横目で見ながらつぶやく。
「自分でもらってくればいいだろう」
「厨房まで行くのめんどくさいわ」
「じゃあがまんしろ」
「あんたがまちがってるなんて言うから、こんなに長くかかることになったのよ」
「人のせいか」
 は真面目な顔でうなずく。スネイプはあきれたように肩をすくめた。

 寒くて死にそう、喉かわいて死にそう、とぶつぶつ呟くにうんざりしてスネイプはマグを差し出す。
「ほら」
 ありがとう、と笑ってはスネイプのマグに口を付ける。しかし半分ほど冷めたぬるい飲み物が舌先に触れた途端、彼女は眉間にシワを寄せた。
「あんた、こんなもの飲んでたら、アメリカ人みたいになるからやめなさい」
「だったら飲むな」
 スネイプはの手からマグを奪い返そうとするが、彼女は手を離さなかった。
「手が寒い」
 あきれたように彼は溜め息をついて手を引っ込めた。

 舌が苦い、とは前歯の先で舌を擦っていた。「おまえ、変な顔してるぞ」とスネイプが笑うと、「私ロックな人だから、舌を伸ばしたいのよ」とわけの解らない事を言った。

「だいたい、色で解れ。コーヒーくらい」
「色は暗いからわからなかった」
「匂いは」
「カフェオレかと思った」
「そんなものを飲むとフランス人みたいになるから飲まない」
「なるほど」
 本気なのか冗談なのか、はけらけらと渇いた声で笑った。

「知ってる?白い牛からは牛乳が出るの」
「牛が牛乳を出すのはあたりまえだし、白い牛なんてめったにいない」とスネイプが言うと、「黙って聞いてなさいよ」とはすこし怒った。
「“知ってるか?”って言われたから答えたんだ」
「あんた、もっとコーヒー飲んでその理屈屋の皮肉っぷりを矯正したら?」
 はスネイプのマグを押し返す。コーヒーは冷めていて、陶器製のマグはほとんど冷たくなっていた。彼は笑った。「で、それがどうしたんだ?」
「そう、でね、黒い牛からはコーヒーが出て、まだらの牛からはカフェオレが出るのよ」
「茶色い牛からはホットチョコレートか?」
 スネイプは真面目な顔でたずねる。
「バカね、チョコレートはカカオ豆をすりつぶして作るのよ」
「じゃあ、茶色い牛からは何が出るんだ?」
「紅茶」
「白と茶のぶちの牛は?」
「ミルクティー」
「白と黒と茶のぶちの牛は?」
「3っつ全部まぜたのが出るわ」
 なるほど、とスネイプは笑った。すっかり冷たくなったコーヒーを一息で飲み込むと、ローブの内ポケットから杖を取り出した。「なによ」といぶかしげに変な顔をするに口の端だけで笑い、なにやらマグに呪文をかけるとそれを押し付ける。
「知ってるか、カフェオレは杖からも出るぞ」
 がマグを受け取ると、中身はいつのまにかカフェオレで満たされていて、湯気まで立っていた。

「うーん、まずそうね。あんたの出したカフェオレなんて」
「なら飲むな」
「飲むわよ、寒いからね」
「礼は?感謝の心をお前は持っていないのか」
 熱いカフェオレを一口飲んで、は言った。
「私フランス人になったから、“thank you”なんて知らないの」
「じゃあ何て言うんだ」
「フランス語なんて知らない」
「フランス人のくせにか」
「なりたてだからね」とは笑った。
 はカフェオレをすする。そして「Merci」とつぶやいた。
「知ってるじゃないか」
「フランス人だからね」
 スネイプは彼女の手首を掴み(「手が冷たい」とは笑った。「こんな夜中に外へ連れ出したのは誰だ」とスネイプも笑った)、そのまま引き寄せて飲んで「Je vous en prie」と答えた。
「フランス人ね」
 は細く息を吐くように笑った。白い息が湯気と混ざる。
「カフェオレを飲んだからな」



「決めた、今日ホグズミートに行くわ」
 どうやら宿題を終わらせたようで、は立ち上がり、腰のあたりに付いた抜けた芝を手で払った。
「ホットチョコレートを飲んで、買い物して、散歩する」

「ホットチョコレートを飲むと何人になるんだ?」
 あたりに散乱したペンやら羊皮紙やらを拾い集めながらスネイプはきいた。
「それは飲んでからじゃないとわからないわね」
「適当だな。未開拓の原住民みたいになったらどうするんだ」
「そしたら、紅茶を飲んでイギリス人にもどるから平気よ」
 明日の朝はクロワッサンが食べたいなぁ、とは月を見上げて言った。フランス人だな、とスネイプが笑った。
 ふたりでゆっくりあるいて寮まで帰った。










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ALWAYS LOOK ON THE BRIGHT SIDE OF LIFE /Monty Python(1991)
軽くてエセフランス風味が良い感じで好きです。歌詞も良い。

アマゾンで試聴できます。エンディングにどうぞ/笑。
Monty Python Sings
CMで使われていたような気がするので、きっと聞き覚えがあることでしょう。
良いですよね。

良い面だけを見ていきたいです。
しかしわたしは口笛を吹けない。
ヒューともピーとも鳴らない。なんでだ。

JASRACが怖い今日このごろ。


2004/11/8    トラ