愛のコリーダ 冬の朝、窓の外は白く光る雪。すべてのものにクリスマスらしいの装飾が付け足されている。誰もがクリスマスらしい歌を無意識にくちずさんでしまい、口元にはほほえみが浮かぶような季節。 しかしクリスマス休暇に入ってしまったホグワーツの人影はまばらで、ホールに集まっている生徒の数よりもツリーのオーナメントの数のほうが上回っているように見えた。 「今日、ヒマでしょ?」 赤と金と緑の布が頭上で揺れている。嫌な色だ。朝食のメニューそれぞれに、果物の鉢にまでクリスマスらしい飾りが刺さっている。数日前から嫌でも目に飛び込んでくる浮かれた空気を認めたくないのか、スネイプはゆっくりと目を閉じる。しかしそんな事をしても現実は変わらないと思い直し、また目を開けた。 十分な間が開いても、まだ彼女からの問いから返事を返していないので、はすこし苛立ちはじめたようだ。スネイプはそれを笑うように口を歪め、ようやく口を開いた。 「残念だが、今日は一日いそがしいんだ。残念、非常に残念だー」 わざと語尾を延ばして言ったので、がさらに不機嫌な顔色になった。それを見てスネイプは笑いを噛みころす。 「ぜんぜん残念そうに聞こえないんだけど」 あふれて落ちそうな(実際、床の上には生徒の食べこぼしが大量に落ちていた)ほどの食べものが無造作に置かれている木の長机をはさんでスネイプの向かいに座っているが不満そうな顔をする。 「ああ、ぜんぜん残念じゃないからな」 「嘘つくんじゃないわよ、スニベリーのくせに」 「誰がスニベリーだ」 「自分の名前も忘れたの? 自分の名付け親達に感謝は?」 はグリフィンドール寮の生徒が固まっているあたりを顎で指して笑う。スネイプはそちらをちらりと見て、辟易したように首をゆっくりと左右に振った。 「あんなに頭の悪いゴットファーザーはいらない」 「あんたより頭の悪い人間がいるなんて、知らなかったわ」 「おまえ、バカすぎて、人の知能を量ったり比べたりできないんだな?」 「ちょっと、かわいそうなものを見るような目つきで私のこと見るの、やめてくれない?」 蜂は紫外線を見ることができるというが、テーブルを挟んだ顔と顔の間で手をひらひら振るにも、視線が線として見えるように思えて、スネイプは少し笑った。 「しかし、忙しいというのは嘘ではない」 「なに? わざわざクリスマスにあんたと過ごしてくれるような心の広い人がいるわけ?」 「お前の心は広そうには見えないけどな」 「あ、自覚はあるんだ」 「うるさい」 「で? スネイプさんにはどんな予定があるんですか?」 こつこつと指先でテーブルを叩きながら、は返事を待っている。どうやら初めから予定などないと思っているらしい。スネイプは喉の奥で笑った。 「昼食までは研究室で自習。ホールで食事。3時まで本を読む。3時半にはクリスマスへ悪態をつく。4時には調理場におりていって、夕食に出る予定のロースト・ビーストを切り刻んでだいなしにする。5時、電飾が灯るころだな。うん、クリスマスツリーに農薬を振り掛けよう。一瞬で木が腐って、揮発して目に染みるすっごい有害なやつをな」 はニヤニヤと笑いながら聞いている。べつに冗談で言ってるわけではないのだが、とスネイプは心の中で釘をさし、先を続けた。 「そして夕食の時間だ。グリフィンドールのやつらがホールでバカみたいに脂っぽいチキンをかっこんでる時に、談話室にもぐりこみ……あいつら頭が悪いから、忍び込んでも気づかないんだ。クリスマスで浮かれてるしな……赤々と燃える暖炉に吊るされてるウールの毛糸の靴下に火をつけてまわる。その後、俺は達成感を抱えて、自分自身との楽しい食事の時間だ。今日の予定のクライマックスだな。会話は主に自問自答。どうだ、忙しい。ものすごく忙しい」 ハ、とスネイプは鼻で笑い、カップの中の紅茶を一息で飲みほした。 「それで、深夜には自己嫌悪に浸るのね。さみしいひと!」 スネイプの演説の最中、赤いジャムを塗られたトーストを食べることも忘れて、ずっとニヤニヤと笑っていたはさらに頬の肉を盛り上げて笑う。 その笑いを無視したスネイプはマッシュポテトの皿を手元に引き寄せた。潰されたジャガイモの山にまでヒイラギの葉とナンテンの実が刺さっている。それを苦々しい顔で取り去り、根元についたジャガイモのペーストを指で拭って皿の横へ置いた。 「自己嫌悪? 自分自身のどこに嫌悪する必要がある。理解できないな」 「私からクリスマスの誘いを受けてすっごく嬉しかったんだけど、つい照れちゃってどうでもいい理由で断っちゃったことによ」 「この自意識過剰のバカ女」 スネイプは苦笑いと共に、テーブルの上に放置されていた飾り物のヒイラギを彼女へほおり投げた。 「この素直じゃないバカ男!」 はヒイラギの描く弱弱しい放物線を鼻で笑うと、胸の前あたりでそれを受け止め、スネイプへ投げ返す。常緑樹の葉はスネイプの白いシャツの腕にあたり、そのままなさけなく膝の上に落ちた。濃い灰色の生地に、葉のふちの刺が引っ掛かっていた。 「おまえ、本当に、予想通りだな」 それを摘み上げ、テーブルの上に戻すと、スネイプはハ、ハ、ハ、とこらえきれなくなったように笑い出した。 「本当に、予想した通りの行動だ」 もちかけた誘いを避けられたら、傷つくよりも怒るだろう。物を投げたら倍の強さで投げ返すだろう。バカだといわれれば、そのまま相手へ同じ事を言う。笑われたら?彼女はどうするだろうか。 可笑しすぎて目を閉じてしまったので、の顔は見えない。 を怒らせることも、笑わせることも、こんなに簡単に思い通りにできるのだと思うと、笑いがあとからあとからこみ上げてきてしかたがない。 しかしこれではどちらが自意識過剰だかわからないなと、自嘲義気な笑いを最期にちいさくつけくわえた。 「それで、いったい何の話だったか」 笑っていた自分を、はどのような目で見ていたのだろうか。たぶん、つられて笑いそうになるのを必死でこらえていたに違いない。その証拠に、の口元には笑みの形が残っている。 「あんたと私が、それぞれクリスマスの日をどう楽しく過ごすのかって、そういう話しよ」 空になってしまった2つのカップへポットを傾けてが言った。湯気の立つカップを間にはさんで向かい合っていると、また笑いがこみ上げてきた。 「とりあえず、俺は学校の外にでると思う」 「じゃあ、私も学校から出ると思うわ」 「どこへだ? 俺の素晴らしい今日の日程表作りの参考に聞いてやらないこともない」 「サンリオファンシーショップ」 「却下」 「なんで!」 「常識の範囲内で」 「あんたの常識は狭すぎるわ」 「じゃあ、俺の好みの範囲内で」 「わがままだ」 「自分に正直なだけだ」 「なるほど」 はくくくと笑い声を漏らした。そして身を乗り出してヒイラギの葉をテーブルの上から摘み上げると、スネイプの胸のポケットに差し込んだ。 「クリスマスがすごく好きな人みたいに見えるよ、セブルス」 薄いシャツ越しに硬い葉の感触がして不快だったが、取り去るような気にはならなかった。 果物の乗った鉢へ手を伸ばし、おなじくヒイラギの葉とナンテンの実のついた飾りを彼女の髪へ挿した。 「おまえこそ、クリスマスが好きな奴みたいに見える」 ところがはそれが気に入らなかったらしく、神経質にも葉の位置を右へ3センチほどずらした。それでも気に食わないようで、結局そこから左へ4センチほどの場所へ挿し直すと、こっちを見て笑った。 今日はクリスマスだから、ふたりともバカでかまわない。 ---------------------------------------------------------- クリスマスは過ぎました。 それでもクリスマスドリを書いてしまう、 この空気の読めなささ! メリークリスマス。 2004/12/28 トラ |