goodbye yellow brick road 3 次の日は昨日の小雨など忘れ去られたような晴天で、ホテルのフロントの男は違う人間で しかしタクシーの運転手は同じ人物だった。不思議なめぐり合わせだ。 「場所はわかってますよ」運転手は紳士的な笑みをうかべて言った。「それともプレゼントを買っていきますか?」 それは親切心なのか、下卑た好奇心なのか、我輩には判断がつかなかった。 それからの数日はが我輩の部屋へむかえにきたり、我輩が彼女をむかえに行ったり、とにかく毎日一緒にすごした。 後半の方など我々は部屋を取りなおして、二人部屋に引っ越した。そして一緒に起きて一緒に寝た。擬似的な生活を楽しんだ。 ミニチュアの生活。 バスルームにはミニサイズの石鹸や歯ブラシが毎日きちんと2個になるように補充される。 毎日かわらない光景、我々はミニサイズの石鹸をすり減らし、ベットのシーツにシワを残す。 その生活の痕跡は完璧なルームメイクで消される。毎日。まるでリセットされて、ぐるぐるとまわっているようだ。 そして我々は同じ製品を使っていたせいで、匂いまで同じものが染み付いてしまった。 我輩はに香水を買った。クラシックな花の香りを選ぼうとしたが、彼女は梨の花とバニラの香りを選んだ。 はその夜、笑いながら部屋中にスプレーをふいたので、朝まで匂いが消えなかった。 結局またふたりとも同じ香りで一日をすごした。 しかし、が入学して卒業したように、はじまりがありおわりがある。 「そろそろホグワーツに帰ろうと思う」 もう切符はある。往復で買ったんだ、と何回目かの朝食の席で、なるべく自然に見えるように言った。 しかし取り消そうと思えば取り消せる、と我輩が言おうかどうか悩んでいると、 「そう」とは短く答え、カフェオレを半分くらい飲み込むくらいのあいだをおいて「今日?」とつづけた。そうだ、と我輩は答える。 「したいことがあるんだけど・・・・」 遠慮がちに我輩の目をのぞきこむ。学生時代を思い出す限り、遠慮なんて言葉を彼女が知っているかどうかは疑問だが。 どうせ最期なんだ。彼女の願いはかなえられるだけ、消化していこう。未練と後悔がのこらないように。 でもそれはきっと彼女のためじゃなく、自分が罪の意識に責められないようにという逃げなのだ。 芝生の上に毛布を敷いた、デリカッセンで買ったサラダ、なんだかよくわからないが甘そうな食べ物、プラスチックの食器、紙のパックのオレンジジュース。紅茶のカップだけがアラビアのティーセットだった。 昔、どうしても欲しいと言うので買ってやったら、もう一対ほしいと言われた。 「今日は、最初からこのつもりだったのか?」 運んできた重い荷物を降ろして我輩は言った。ピクニック。しかももうじき夕方の、あまり適さない時間。 「ほら、急がないと日が落ちちゃいますよ、先生」 荷物を取りに行った家にはもうまとめられたピクニックセットが置いてあって、すぐに運べばいいような状態だった。 彼女はかがんで靴を脱ぐ、そしてその靴をほりだて毛布の上に座り、我輩を呼ぶ。 足の爪には健康にも環境にも悪そうにぎらぎら光るペディキュアを施してあった。たぶん、あのいまいましいブランドだろう。 マジカルミーデコラ。色番号PK-666、マゼンタROCKピンク。忘れもしない、些細なことで拗ねた彼女に嫌がらせとして買いに行かされた商品だ。 「まったく・・・普通こういうことはもっと日の高いうちからはじめるものではないのかね?」 「いいじゃないですか、そんなこと」 「もっと早く言い出せばよかろうに、朝からムダにすごす事もなかっただろう」 朝食の後、しばらく彼女は何も言わなかった。何がしたいのだね、と聞いてもあいまいに答えをはぐらかすだけで、見たくもない衛星放送の映画を部屋に付いているテレビで二つも見てしまった。まあ、それなりに彼女は楽しんでいたようだが。 オズの魔法使い、そんなものどこがおもしろいのか我輩にはちっともわからん。もう片方の映画は偶然にも二人で見に行った例の映画だった。 めずらしい事もあるものだ。その映画が終わると、やっとは行動を起こす。家に行って、持ってきたいものがある、と。 「・・・・君がそれでいいなら、べつにかまわんのだがね」 まだ、時間はありますよ、と彼女は言った。 どこから持ってきたのか彼女は小型の音楽プレーヤーを置き、その小さいスピーカーから出ているとは思えない大音量で古いロックミュージックを発生させた。 「さあ、パーティーを、はじめましょう」 雑音にしか聞こえない音に顔をしかめながら答える。「なんのパーティーだ」 「さよならの」 そう言った彼女の顔は笑顔だった。 彼女は不自然なほどにものすごくよくしゃべった。たいていはどうでもいいことだった、卒業した友達の進路だとか、いろいろ。 我輩はそんな話にはまったく興味がないし、おもしろくも思わない、たぶん彼女もそう思っているが沈黙に耐えられずにただ口を動かしているに過ぎない。なんとなくあいづちをうった。そして我輩も同じくおもしろくも何ともない話しをした。 は言葉を発するのではなく、軽く腕に触れたりまばたきをしたりを絶妙のタイミングでおこない、まったくおもしろくない話しでもそれなりに楽しくすることができる。しゃべっているのは自分だけなのに、会話をしている気分になれるのだ。 これは努力により体得できるような技術ではなかろう。それに勘違いをした頭の悪い生徒が彼女にむらがる。 誰だろうと、自分にその価値がなくても、人間はたのしく「会話」したいのだ。 たぶんは新しい環境の新しい上司にも同僚にもおなじように「会話」するだろう。そう思うと吐き気がする。 いつのまにか、外周の無い大きな円は燃えるように炎よりも熱い赤い光線を発し、横顔をてりつけていた。 彼女の饒舌さは日が沈むにつれて口数がすくなくなっていった。ときどき思いついたように腕に触れ、キスをする。 は一瞬目を伏せ、まっすぐに我輩の目を捉える。 「もう、昔には戻れないみたいだよ・・・・・セブルス」 強い風が吹いた。名前をストレートに呼ばれたことは初めてだった。 なんということだ、立ち止まってたのは我輩一人だけで、彼女はの気持ちは新しく更新されていたのだ。 我輩は・・・・戻ることも進むこともできていない。 「自由になりましょうよ」 我輩の目を彼女はみている。我輩も彼女の目を見ている。 たぶん、二人の視線のあいだには空気も光さえも隔てるものは何もなく、まっすぐに対面しているのだ。 「ふたりで」 静かに彼女ははっきりとつぶやいた。 しかし傾いた太陽による強い夕陽が逆光となり、彼女の表情が見えない。 「もうすぐ、列車の時間ですね」 何事もなかったかのように、そう言って彼女は立ち上がった。笑顔で。 何も答えることができなかった。 すこし前まで地上に残っていた、かすかなにごった光も完全に消えてしまい、うつむいた彼女の表情を見ることができない。 星が出始めたようだ。空にひとつだけ強い光を持った星がうかんでいる。歩いているうちにひとつ二つと増えていった。 手を繋いで駅まで行った。初めて手を先に握ったのはどちらだっただろうか、ということを我輩はぼんやりと考えながら歩いていた。 地平線のあたりがかすかに薄黄色く、水色をはさんだ紺とのグラデーションがうつくしかったが、多数の電線やら駅のホームの屋根やらで空はいくつにも分断されていた。 いまさら何もしゃべることは無かった。彼女も黙って前だけを見ていた。 ただ頭の中では彼女とすごしたすべての思い出が延々とうかんではきえていった。 駅のホーム、今回も彼女が手をほどこうとしたが、今度は一度強く握り返し、腰を抱いて引き寄せた。 短い別れのキスをする。 「さよなら」 今度こそ彼女を自分から完璧に手放した。 そして、 「また会おう」 責任を負うことによって、なにか重荷のようなものがようやくおりたような気がする。責任よりも罪悪感とためらいのほうがきっと重かったのだ。 たぶんそれは我輩のなかの彼女の存在を認めることによって、うまく自分でも納得する事はできないが、ようやく自分を認めることができたのだろう。 結局、彼女に溺れているのは自分だということに気づけばよかっただけのことではないか。 我輩は目を閉じて、ゆっくりとまた開いた。少しでも長い間、新しく見える彼女の事をみとめていたかった。 「また、会ってくれるか?」 薄暗い駅に突然光があふれる。 天井に吊るされたランプひとつひとつ一斉に光が灯る光景はなかなかファンタジーにあふれるシーンだ。 暗くて見えなかった彼女の顔をやっと見ることができる。 ただ日が落ちきって暗くなったことをセンサーが感知し、照明が自動的に点いただけというのはわかっていたが、あえて頭の中から追い出してしまおう。 今、すべての神(キューピッド?アフロディーテ、ゴーゴン、ヘラ、ゼウス、弁天?誰でもいい)は我輩の味方だ。 そうおもいこむ。 「答えてくれないか、」 彼女は涙に埋もれながらうなずいた。我輩は初めて自分で選択をしたように思える。 涙を止めるために頬に手をやり、もう一度やさしいキスをおとすが泣きやむどころかしがみついて離れなくなってしまった。 駅構内を行き交う人々が何事かとぬすみ見ては通り過ぎていく。 若い学生らしき女どもが指をさして笑う。大人の愛の交わし方にまだ免疫がないようだな、ガキどもめ。 彼女の背中をなでながら時計を見る。 列車の発射時間は刻々と迫っていた。このまま抱いて連れて行ってしまおうか、どこかへ。 ふと目線をおとすと、まだ涙をためてはいるが彼女の目は笑っていた。 列車の出発を告げるアナウンスを耳にした。 彼女のこめかみへもう一度、くちびるをふれさせた。今夜はの家へ帰りたい、そう思った。 ----------------------------------------------------------- おつかれさまでした わりと真面目に書きました。 もーシリアスなのかシリウスなのかセシリアなのかシシリアなのかわけがわからないですね。長すぎて。 普段、普通にこれくらいの量のお話しを書いている人を本当に尊敬します。 また出たよ。マジカルミー。 (わからない方はそのままでも人生にまったく影響を及ぼさないのですが、もし知りたかったらハローウエンディの後書きを参照) マゼンタROCKピンク、ほしいです。作ろうかな。 透明なエナメルにマゼンタピンクの粒が大きめのラメを大量に混ぜる。ほとんどラメしか見えないくらいに。 いいな、ラベルも適当に作って配布とかしましょうかね。ダウンロードフリーみたいな感じで。 ご家庭でお作りになったオリジナルネイルエナメルにバニララジオからプリントアウトしたラベルを貼っていただく感じで。 でも派手すぎで足にしか塗れない。フレンチネイルならありかも。ラメフレンチはかわいいと思います。 キスキスキスキスさんざん書いてたんで、もう全然キスとかちゅーとかいくら書いても恥ずかしくないです。 や、ちゅーは恥ずかしいかな。麻痺よりマシか。 さて、タイトル「goodbye yellow brick road」(黄色い煉瓦の道にさよなら)はエルトンジョンの歌。 黄色い煉瓦の道は、オズのエメラルドシティへ続く道。 それに「さよならする」という事は、夢見てたものと現実は違うんだ、ファンタジーから卒業して現実へ成長しよう。 みたいな感じですかね?かなり意訳っぽいけど。まあ、そんな感じです。 本当は「BALLERINA spinning to your ROCKandROLL 」にしたかった・・・・。でも上の方がわかり易いのではないかと。 いいや、これはまたいつか使おう。 (映画はヘドウィグアンドアングリーインチ) トラ 2004/6/21 |