花泥棒






休日の明け方、暗い研究室の石畳の上で足音が響く。
朝日が地平線から見えようとする時刻でもかわらず暗い暗い石作りの廊下、明かりは数メートルごとに壁から突き出ている蝋燭の灯りのみである。
すこしでも風を感じると炎はゆらゆらと揺れる。その小さな光にあわせて影も揺れる。
硬い床に足音を響かせながら闇のふきだまりであるスリザリン領を抜けて彼の研究室へ向かった。
光の漏れる重い木製のドアを押し開ける。


「・・・・寝込み、襲おうかと思ったのに」
目の端のの姿を確認してスネイプはすぐに試験管へ視線を戻した。
そしてにやりと笑う「この時間は薬品が安定しているのでな」
音もなく扉を開けて忍び込んだスネイプの寝室はもぬけの殻で、目当ての人はすでに部屋を出て活動を開始していた。
寝室にいないとすると、ここしかあるまい。彼女は動く回廊と格闘しながら地下へもぐっってきた。そして予想はあたっていた。
たいして特徴のない黒のガウンを羽織って、部屋着のままで飛び出してきたのに。
「それにもう夜ではない」
「本当はもっと早くに来ようと思ってたんですけど、寝過ごして」
そうか、とスネイプはさして興味もなさそうに短く返事をして実験を続ける。
「・・・・先生は今日なにか予定はありますか?」
「どうしてそんな事を聞く」
「別に、ただ、先生も休みの日は遊びに行ったりするのかと思って」
「少し、まよっている」彼は実験の手を止めた「買い足さなくてはならない材料がいくつかある」 
実験台のななめまえに位置する棚を見やるとあごに手を当てて薬草などの実験材料の羅列をはじめた。 
「ラパコール、ジギタリス、ツワブキ・・・・それにウコギか」
「なんですか?」
実験途中の青い炎をもてあそびながらはこうもりの羽を焦がしていた。
スネイプはその羽をから受け取り細かく砕く、君は最適の助手になるだろう。という言葉がくちから出かけたがその言葉は心の中にのみこんだ。
たぶん彼女なら、助手ではなく、主役になるにきまってるじゃないですか。とか言うにちがいない。
実験は実にテンポよくすすんでいく。

「わからないか? 君がこの一週間に我輩に無断で浪費した薬草だ」
「そんなこともありましたね」
けろりと言うにあきれたようにスネイプは肩をすくめて大げさに驚いてみせた。
「いったい何に使ったのだ」
「あー まあ、いろいろですよ ラパコールはこのまえのナイスタフガイへのプレゼントのチョコの着色に使ったし、ジギタリスは薄めて薄めて小憎らしいグリフィンドールの彼女に、あと・・・・ツワブキも似たような用途に」
彼女にとってそういう行為は日常的な行動らしい。ああ、末恐ろしい小娘よ。 
「あまり、感心はできないな」
スネイプは薬品棚からガラスの瓶をとりだすと机の上に並べた。「マダムポンフリーの仕事が増える事になる」
「とくにジギタリスは劇薬ゆえに取り扱いに注意が必要だ、使うのならばもっと効果の薄いものにしろ」
「それに、マダムが薬を消費すると我輩がその補充のための調合をする事になるのでな」
「・・・・フェアじゃないことをするなって言わないところが陰湿な先生らしいですね」
じろりと暗い色の目がを睨む。彼女はその視線をほほえみをもって返した。
「で、結局どこかに行くんですか」
「・・・・・何かあるのか?」片眉を怪訝そうにつり上げる。 
どうやら調合は終了したようでスネイプは器具の片付けにかかっていた、かちゃかちゃと器具が耳障りな音を立てる。
「まあ、あるといえばあるけど、ないといえば何もない感じ」
「意味がよくわからないな。結局なにが言いたいんだ?」
「今日は先生と一緒にいるって決めたんですよ」
だから、先生の予定が私の予定、とは微笑む。
「我輩がそう望んでいなくてもか?」
はその言葉を無視した。
というより、その言葉に反応してスネイプのリアクションを感じる以上に、興味をそそられる物体を発見した。
結果的には無視をしたという事になるのだが、彼女はそんな過去のことは気にしない性格なのだ。

テーブルの隅にうすい紙に包まれたかたまりがあった。「これはなんですか?」
黄土色とも茶色とも区別のつかない色のかたまりは石のようにも見え、土のようにも見えた。
はそれ引き寄せて手にとった。
「なんだっけ・・・・どこかで見たことはあるんだけどなぁ」 
大きさは片手に余るくらい、粘土板のうえにレリーフ状に渦巻きのようなものが浮き出ていた。
「化石だ」よこめでちらりそれをと見たスネイプが言った。
「なんの?」
は包みから取り出した化石を手でつつむ。
「アンモナイト。注文していたものが昨日とどいた」
「化石集めるの趣味なんですか」
意外ところで露呈した趣味に意外そうに眉をひそめる。
ななめ上をいくバカらしい返答に、以上に眉をひそめ眉間にシワを作ったスネイプが答えた。
「いいや、魔法薬だ。砕いて使う」
「もったいなくないですか?」
は化石の内箱についていた値段を見る。「砕いて使うなら、もっと小さなかけらとかでもいいじゃないですか」
作業台の下に収納されていた木のいすをがたがたと音をたてて引き、スネイプはの正面に座った。
手をテーブルの上で組み、授業のような口調で口を開く。「魔法薬を調合するという事はその素材のもつ魔力を引き出し・・・・魔力のあるもの同士を掛け合わせて効果を高めるという事はわかるな?」
もいすを引いて浅く腰掛け、黙ってうなずいた。
「魔力はそのもののおかれた環境などによって違う・・・もちろん、密度なども関係してくるが」
「それで?」 
「魔力は状態が完全であるほど高い。石の中心のほうが外側の部分より魔力が高いのもよくあることだ。不確かなものだが。」
スネイプは言葉を切り、のようすをうかがう。「つまり、そういうことだ。おわかりいただけたか?」
「ええ、わかりやすい御講釈どうもありがとうございました」
は手のひらの上のアンモナイトの化石をもてあそんでいる。
「でも、砕くのはやっぱりもったいない気がしますよ」
「まあ、しかたなかろう」
ひやりとして手にとてもよく馴染む、心地良く重い。軽くもなく重すぎもせず、ずっと手に乗せていたいようなおもさだった。
は化石を手の上に載せたまま手を握ったり緩めたりを繰り返していた。
「そして、この石はスネイクストーンとも呼ばれていた」
スネイプは注意深く見ていないと見逃すほどにかすかにほほえみ言葉を再度続けた。
「スネイク?蛇ってことですか?」
「ああ、ロマの人々がそう呼んでいた」
「ロマ?」
「ジプシーの事だ」
ああ、とは納得したようにうなずいた。確かジプシーという言葉は最近使われなくなったらしい。
「このとぐろを巻いたような形が蛇に見えたのだろうな。蛇が石に化けたものと信じられていた」
そう言ってスネイプはの手からアンモナイトの化石を取り上げると薄紙で包み、木でできた箱にうやうやしくしまった。
スネイクストーンを取り上げられたはすこし批判的な目でスネイプを見上げる。
「そんなにこの石が気に入ったのか?」
はうなずいた「それすごく好き」
「すこし先生と似てる」
「・・・・どこがだ?」
スネイプは眉をひそめた。たぶん言葉の意味が理解できなかったのだ。
「・・・・・名前とか」
「意味がまったく違うではないか」
「暗い色で硬いところ?」
「それはあまり良い意味ではないように聞こえる」
「先生、誉めてほしいの?」
「べつに、そういう事を言っているのではない」
まったく気にもとめないようにさりげなく、笑みを隠しては席を立つ。
スネイプの横に立ち、そして肩を押して向き合うように体の向きを変えさせた。
「とにかく、私の気持ちが複雑すぎて、言葉じゃ言いきれないの」
そう言ってはスネイプの襟首をわしずかむ。そして肘を曲げ、ぐっと引き寄せた。
足をスネイプの腿のあいだにはさみこんでイスに片膝をつく。そのまま前に体重をかけてスネイプの肩を掴む。
そして完全に膝の上へ落ち着いた。
「だから、私のハートから直接すいだしてください」
スネイプの両頬を手のひらで挟むように掴み、顔を少し傾けて口をあけたキスをした。
舌のざらつきを皮膚と粘膜の境目に感じる。スネイプは一瞬けげんそうな顔をするが、彼女の突飛な行動は普段からの事なのであまり気にせずにキスを受ける。

は舌先でスネイプの舌をなめる。
彼女の唾液はさらさらしていて、呼吸のはずみにすこし飲み込んだような気がする。
遺伝子、という言葉がなぜか脳裏をよぎる。彼女の唾液には彼女の遺伝子が含まれている。
我輩の唾液にも我輩の遺伝子が含まれている。我輩の遺伝子と彼女の遺伝子は混ざり合うのだろうか。
・・・そんなことはありえない。ただ、の唾液が我輩の身体に吸収される事はまちがいないだろうな。
いままでどれだけ彼女を吸収してきたのだろうか。
HIVを唾液をかいして感染するには、バケツ3杯くらいを飲み干さないと感染しないということを聞いた事がある。
まあ、彼女も我輩もHIVポジティブではないのでまったく関係のない話しだ。ばかばかしい。
バケツ3杯。と交換しあった唾液は3杯よりもおおいだろうか、すくないだろうか。
遺伝子、唾液、遺伝子。
よく考えてみれば普段、我輩がくちにしている肉も野菜もすべて遺伝子の塊ではないか。
しかし彼女は食物とは違う。それでは何なのだ?唾液は胃で消化されるか?

そんなことを夢想していたスネイプに、すこしだけ唇を離しては「先生?」とくびをかしげる。
舌をひっこめるが、まだくちびるが触れる距離で彼女は「私のハートの言いたいことはわかりました?」と問いかける。
そうだ、そういう理由のキスだった、とスネイプは心の中で笑う。
「君は心臓で物を考えるのかね、頭の中には何が入っているんだ?え?」
先生の左胸にはきっと化石がつまってるわ、とは笑う。
スネイプはの髪の毛を軽く引き、くちびるとくちびるを遠ざける。
上を向かざるをえなくなった彼女は、それでもスネイプをはなさない。足はニ、三度空中を蹴った。
「脳の中は私の理性」しっかりとの目はスネイプの目を見ている。
たぶん彼女の視界の中では頭蓋骨も透けて灰色の脳細胞も見えているのだ。
の上を向いた喉をスネイプはひと舐めする。彼女の喉がふるえる。たぶん笑っているのだろう。
「先生を好きな私には狡猾さなんてないわ」とにかく、すごく好きなの。と色のあるくせに無垢なくちびるでほほえんだ。
喉のおくでスネイプは笑う、つかんでいた髪の一房をほどき、指で梳く。そのままてのひらは毛をつたい肩甲骨へとすべっていく。
「残念ながらミス、我輩は脳味噌で物事を考えるものでね、君の詩的で耽美的な言葉は理解ができんのだよ」
そう言ってスネイプはの額にキスをする。
さすがミスタースネイクストーンね、と彼女はつぶやいて笑った。

もういちど触れるだけのキスを数回する。そしてはまた舌をつきさした。
、舌をつっこめばいいというものではない」
スネイプはくちびるを離す、の舌先を歯で噛んだ。
恐怖感と嫌悪感に彼女は舌を引っ込めようとするが、逆に前歯が刺さってしまい身を硬く強張らせた。
それを見てスネイプは口の端だけで笑う。そしての舌を解放した。
は一瞬、抗議を含んだ目でスネイプを見あげるがスネイプは彼女の下唇を軽く噛む。
「キスというものは、くちびるでするものだ」
唾液でてらてらしている口の端をなめ上げる。下唇をくちびるの肉厚でくわえる。
そして舌を差し入れひねり、味蕾どうしの摩擦のざらつきを感じる。
の脳内の酸素が不足し、あたまがくらくらする。
酸素の獲得のためにはくちびるをはなし、呼吸をするためにくちをさらに開いた。
その開かれたくちびるにスネイプはより深く舌を沈めて塞ぐ。
は頭をさげて逃れようとするがスネイプの手は彼女の後頭部を押さえてはなさない。
無意識に腕をつっぱって彼女は身を離そうとするが、その腕もスネイプの手に捕まえられてしまう。
掴まれた腕をひっぱられてさら押し付けられる。あえぐようにはくちびるとくちびるの隙間から空気を吸ってはく。
彼女の二酸化炭素さえも逃さぬように、スネイプは彼女を放さない。
が息をしようと首をのけぞらせるたびに、スネイプは彼女を押さえつける。
21gの20分の1くらいをかすめとられてしまいそうな気分だ。
抱きついてきたり、キスしてきたり離れようとしたり、いそがしいな、とスネイプは口の端を上げて笑った。
「さて、君には選択肢を二つ与えよう」
スネイプはの拘束をとき、彼女はようやく許された自由で制限のない呼吸を大きくつづけ、涙目でスネイプを見あげた。
「ひとつ、このままこの部屋にとどまるか・・・・・」
スネイプは片手をの腰にまわしたまま、彼女の目の前にもう片方の手を甲をむけて突き出し、指を一本たてた。
「ふたつ、我輩の寝室へ上がるか」
自分のした事には責任を持ったほうがいいと、教師である我輩は生徒であるミスに告げる、と二本めの指を立てた。
人差し指と中指のあいだをは舌を伸ばしてキスをし、ほほえんだ。
「やわらかくってシャワーのあるほうが良いわ」
スネイプは確信を得たほほえみをかえす。
「背中が痛いのは嫌だわ」
「ならば、お連れしよう、お嬢さん」
とスネイプはを膝の上から降ろし、うやうやしく腰をおり、彼女の手をとる。
そしてのもう片方の手がすばやくスネイクストーンへとのびるのを見ると、やっぱりやめて彼女をしたたかに研究室のごつごつした石の壁に押し付ける。
「そんなに石がお気に入りのようでしたら、すきなだけ堪能するがいい」
そう言うとスネイプはのくちびるをなめた。











彼女は太陽のとっくに傾き空はオレンジ色になったころ、さわやかだった休日をすごせぬまま、彼の地上の部屋で最終的なシャワーを浴び、気がすむまで眠った。
















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読むだけで書くだけで、喉が渇きそうなドリですね。きっと口内荒れまくり。
・・・ちゅーしてる気分になれました?

テーマは耽美エロ。
超耽美なタイトル花泥棒。
でも私のPC、一発変換は鼻泥棒。む、むむむむ村上龍?インザミソスープ?
もー泣きたくなったね。私の耽美を返せ、win95のくせに。
・・・・だからか。

ちなみにバケツには2杯説、3杯説、何十杯説、35杯説などがありますが、3
杯説がいちばんおおいようですね。
まーバケツって大きさが厳密に決まってるわけではないので「可能性はまったく
ないぞ」をいうことが解ればいいんでしょうね。
しかも、一度に飲み込まないといけないようです。

c VanillaRadio
トラ
2004/6/19