RADIO GA GA 連休の初日の特になんの目的のない(魔法的なものでもない)買い物から帰りの列車に乗ろうと駅へ向かう道の途中、はいきなり足を止めた 空が青色から藍色に変わるくらいの時だった はゆっくりと歩いていた足を止め、顔を上げてまっすぐに我輩の目を見た こういうふうに彼女が我輩の目を見るときはかならず厄介な事が待っているのだ 我輩は思わず身構えた 別に彼女が厄介な事(つまり、わがままということか)を言い出すという事はさほど珍しくもない むしろ、日々手を焼いているくらいだ。それでも我輩が彼女の手を離さないのはなぜだろうか、と、まえに真剣に考えたことがあるのだが その等本人の(彼女の)寝顔が目にはいると急に馬鹿らしくなってやめた そしてその事を彼女に問えば「愛の力」などとのたまう事は予想できていた あまり認めたくはないのだが ・・・・そんな事はどうでもいい ただ今回の事は少し大きな問題だった、計画的であった 許可もとってあると言う 許可、それは外泊許可だった 「モーテルでもどんなとこでもいいから、今日は帰らない」 「・・・・そんな事ができると本気で思っているのか?」 もちろん我輩も多くの講師がするように生徒でもある彼女をたしなめた 「もちろん」だが彼女はためらう事もなくはっきりと「思ってるわ」言った 「どういうつもりだ」 「あー、つまり、『同じ夢を見ましょうよ』ってこと」 「ふざけているのか?」 「本気、すっごい本気」 ・・・・。このような進展のない会話が何往復も続いた(結局、我輩が折れる事により会話は終止符をうった) 普段よりも彼女の鞄が大きい事に今ごろ気付く まあ、いだろう ホグワーツを出てくるときも別々に出てきたのだから・・・いま思えばこれも彼女の計画のうちだったのだろうか ホグワーツの教師には連休の間の一泊くらい職務からはなれて自由に過ごす権利もあったはずだ 喜びのあまりに満面の笑みで歩いているにもかかわらずまとわりついてくる彼女を引き剥がすのは少し苦労した (それはべつに我輩もがその感触を楽しんでいたわけではない、断言しておこう) ・・・・このように甘やかすから彼女ののわがままは日々増大していくのだろうか これからの学園生活を思うと少し頭が痛くなった 彼女がリストアップしたホテルはどこも満室だった 当日の夕方にチェックインしようとするのが間違いなのだ 彼女はまだ詰めが甘い ようやく見つけたホテルはとても古いホテルで、清潔感と静けさだけが売りのホテルだった ホテル、ビジネスホテルという表現方法のほうが正しく感じられる メンテナンスだけはしっかりしているようだ・・・・・・それだけが救いだな こぎたなく清潔で白い廊下を歩く 「まあまあ、かな」 白い部屋に入るとどさりとベットに鞄を置き、窓際の小さなテーブルにテイクアウトしてきたジャンクフードの紙袋を置く は早速靴を脱ぎ捨てた 泊まるところを探す時間が長すぎたために、途中で調達してきたチープな食料だ やむなく半分ほど胃の中に入れた 胸やけがする まったく、安い油しか使っていないようなフライドポテトだった 「夕食はどうしたいんだ?」 「あー、レストランとか行ってもいいですけど」 あまり食べる気分じゃありませんねと彼女は言った 同感だ 無言の時が流れた ただ二人は並んで立っていた、たちつくしていたといったほうがあっているかもしれない、とにかく無言で窓の外のようすを眺めていた 駅や賑わってる界隈からは離れているのでとても暗かった 賑やかな店の並ぶ通りから誰かの、 たぶん酔いにより自分をコントロールする事を放棄した人間が歌う声がかすかに聞こえていた ただぼんやりと2人は外を眺めていた 手だけをつないで同じ方向を見ていた 手首にまかれている円盤の針のスピードがいつもよりも遅く感じられた 星が北極星を中心として描く動きの光の帯すら見えるような長い時間がゆっくりとすぎているような気がした なにかしゃべらなければ、とおもった なんでもいい 時間を稼がなければ 時間の感覚を取り戻さなければ、とおもった 彼女の、手の圧力がすこしだけ強くなったような気がした たぶん、普段ならばどちらかがシャワーを使いに行くタイミングだろうな そんな空気だった 2人で同じホテルの同じ部屋に泊まるという事はもちろんセックスがついてくるという事だろう そんなことはお互いに理解していただろう ただ、そんながっついた衝動は2人とも見せたくはなかったし 特にあせる必要もないように思えた 別にそんな事はホグワーツでも好きなだけできるのだから 口を開こうとするが出てこない言葉に、少しいらいらしていた なぜ、今日はこんなにも物事が上手く運ばないのだろうか 店で買い物をする時にはかならず小銭をばら撒いたし、そのたびに店員の苦笑を目にした いつもならばこの時間には自室で書類や課題を作成しているか、横にのいる状態で読書をしているかどちらかだ すくなくとも今のようないたたまれないような手持ち無沙汰な気分はあじわっていないはずだ 脈絡もなく思考は滑っていく いつのまにか彼女の手のひらは手の中から滑るように落ちていて 柔らかな絨毯の上をはだしの足があしおとを立てていた なにか言葉をかけるべきだ、とおもったがなにも口から出てこない かけるべき言葉が見つからないのだ 何も頭に浮かべる事ができない なんにせよ、今の状態が動くことにすこし感謝した 彼女はシンプルな動作で彼女の鞄のファスナーをあけ、中から茶色いうすい包装紙に包まれたなにかをとりだした テーブルの上に音もなく置き、包装紙を剥くそのなかはさらにエアパッキンでつつまれていた 「随分と厳重だな」彼女の行動をうけ、ようやく口を開く事ができた 彼女は何も言わずにほほえんだだけだった なにか言ってくれないと会話が続けられないのだが つつみのなかからは灰色の真鍮の箱のようなかたまりがあらわれた なにかの機械のように見える 「古いし、最近うごかしてないから動くかどうかあやしいんだけどね」 彼女は側面のスイッチをはじいた 雑音が部屋に響く 通りの向こうから遠く聞こえていた誰かの叫ぶような歌うような声も雑音にかき消された 灰色の真鍮は照明の光を反射して白く光った「ラジオか」マグルの受信機械だ 「そう、ラジオ」彼女はダイヤルを回して調整を続けていた 雑音は響きつづける 回されるダイヤルと同じタイミングで雑音は波のように響きを変化させる だが、雑音はどこまでいっても雑音でしかない アンテナが伸ばされる 一瞬人の言葉のような、とにかく雑音ではない音域が耳にはいった ついにアンテナは電波をつかまえることができたらしい 小刻みにダイアルを調節する 音と雑音の感覚がだんだん狭まっていく どこか遠くはなれたラジオブースではヨハンシュトラウス2世のワルツが滑るように回転していた 「今日買ったのか?」うれしそうにほほえむ彼女の横顔が見える 「いいえ、ホグワーツの私の部屋から。そのまえはもちろん、私の家にあったわ」 そして彼女はにこりと笑う「学校内じゃ無理だから」そうだ、学校ではくだらないマグルのキカイなど、使用が禁止されている 指がテーブルの上で3連アルペジオのリズムを刻む この白い部屋に場違いな荘厳な音がはねる ちいさなスピーカーから発せられたバイオリンの音は床の毛足の短い絨毯にぶつかり、振動を吸収される ちいさなスピーカーから発せられたビオラの音は壁と体の間でバウンドをくりかえし、耳の鼓膜へ吸い込まれた 鼓膜でさらに振動をした 昔のウィーンで発想され書き留められ演奏された音は脳へと運ばれていつか聞いたメロディーの名前の記憶をよみがえらせる この、白い部屋にはとても場違いな荘厳な皇帝円舞曲 「・・・・今日、帰りたがらなかった理由はそれか?」我輩は溜め息をついた まったく、ワルツなら学園でも、いくらでも聞く方法があるはずだ 「それもあるけど・・・・」 は我輩に近寄り笑い、彼女を構成する肉体の一部の体重を我輩のからだにかけた 我輩の体よりもあたたかいの背中の熱を感じる その熱がここちよくておもわず目を閉じた 「それだけじゃありませんよ」やわらかく彼女はほほえむ とても楽しそうに幸せそうに だがその答えはあまり要領を得ない返事だった 「じゃあ、なんだというのだ」の肩に手を置く 手からも彼女の肩の体温を感じる事ができた・・・血の流れる微量の振動すらも感じ取れるような気がした 我々は背中と胸と、肩と手のひらとで体温を交換し合っていた 皇帝円舞曲がクライマックスの駆け上がるような音階を奏でシンバルが鳴り出したとき は我輩から身体を離し2・3歩の距離をおいて向かい合った 体温を名残惜しむように握っていた手も離された 静かにヨハンシュトラウス2世のワルツはフェイドアウトしていき また別の彼の作品が回転し始めた ドナウ 曲のつなげ方としては最高のチョイスの仕方だ と我輩は普段ならば思っただろう そしてまた彼女はにっこりと笑う(彼女はこんなにわらって筋肉痛にはならないのだろうか)そして手を差し出した それはとてもシンプルな手の差し出し方で ただ自然に手を上げただけのようにも見える しかし たしかにその手は我輩に向けられている そして彼女はいまだ微笑んでいる すこし手を出した事を後悔したような、はにかむようなほほえみだったが それはすぐに自信を伴ったほほえみに変わる(たぶん美しく青い壮大な川の流れにでも勇気付けられたのだろう、くだらない) 我輩に向けて差し出された指がかすかに動いた さそうようにかすかに揺れた やっとの思い出我輩は口を開いた「くだらない」かわききった喉でこれだけのことが言えれば上等だ 「くだらない?」怒ることもなく彼女は効き返す「そう思う?」そしてたたみかける 近寄り、はだしの足でできる精一杯の背伸びをして我輩につめよる「ねえ」とてもたのしそうに「答えなさいよ」 そしてまたくるりと背を向けて我輩にむかい立ちにやりと笑うと 長いドレスがそこにあるかのように裾を摘むように手をひろげ膝を折り とてもゴージャスで優雅で美しく礼儀正しいお辞儀をした 彼女はそのままの体勢で顔を上げ我輩に答えをもとめるようににっと笑う 「あまり とくいではない」 彼女は微笑み 待ちつづけている「ええ、そうでしょうね」 「・・・・・もう何年もそんな事はしていない」 「私以外に誰とおどるっていうんです?」 「うるさい」 「早くしてくれませんか?この体制けっこうキツイんですけど」 「何を言っているんだ」 「手、出せばいいんですよ」 「・・・・・本気か?」 「本気、すっごい本気」 うんざりを眉間に手を当てる 埒があかない「こんなやりとりを今日した覚えがある」 「ええ、しかも私の勝ちでしたよね」 そのとおりだ 「アンナと王様って映画知ってます?」くすくすと彼女は笑う「あれと同じですよ ただ聞いて動けばいいんです」 わかった もう降参だ 歩みより少し膝を曲げてシンプルに手を出す 彼女の手がその手に重なる やはり彼女は手も暖かかった 満足そうに笑い彼女は立ち上がった 「そう、それでいいんです」嬉しそうに笑う 「何も言うな」 部屋のすこし開けた場所に2人で向かい合って立つ 肩へ手を腰に手をそして手と手を ゆっくりとした動作でポジションをとるそしてカウント 動き出そうと手を少し握ると ラジオのスピーカーから流れるワルツのボリュームは絞られやわらかな声のDJがヨハンシュトラウス2世の生涯を語り始めた 彼は1825年に生まれ・・・・ そんなことはどうでもいい 本当に今日は物事が上手く運ばない 何もかもが上手くいかない なにもかもがうまくいかない 静かに待っていた彼女は もう待つ事にあきたのか、ほほえみと共にワルツをくちずさむ それだけで部屋の空気は柔らかくなる そして柔らかい声の老人は次の曲の背景を簡単に解説し、また消えていった 緩やかに回転を始めるワルツ 円を描くように進む足 ゆるやかにほほえむ 会話はない 絨毯は足音を吸収する 会話のおわった部屋から漏れる音は音質の悪いワルツだけだ でも もうそれでかまわない やっとスムーズに動き出したのだ もうこのまま止まらなくていい 永遠に続くかのように思えた床の上でのダンスが終わったあとの、スプリングがきしむころにもワルツは静かに滑るように回転しつづけていた ラジオブースの中のDJも回転する円盤(レコードではなくて今はCDなのだろうか)も休むことなく働きつづけていた 通りの向こう側では誰かが叫ぶように歌うように誰かを呼びつづけていた そしてこのまま朝まですべては続くだろう ワルツのようになめらかに --------------------------------- おつかれさまでした 甘いと思うんですがどうでしょうか BBSの使いかた知ってます?(つまり、お返事くださいって脳内で訳してください) たまには、人に誉めてもらいたいものです だれか共感して同調して褒め称えてください(私を!) メタメタです うん。 今までの話の中で1番恥ずかしいかも なにはともあれおつかれさまでした。 アップされたものがキリリクでなくて本当に申し訳ないです トラ エロと甘さは違うんですか? 2003/5/19 |