倫理と季節の神聖視





 ことあるごとには「魔法使いってセンス悪い!」と声高に主張する。ずるずるしたローブや、中世を思わせるデザインに我慢が出来ないそうだ。だから週に一度はかならずマグルの中心地、ロンドンへ買い物にひっぱりだされる。我輩もマグルの洗練されて必要意外な部分はできるだけ切り落とされたカッティングは嫌いではないので、甘んじてその買い物に付き合うことにしている。
 それに彼女にとっては”物を買う”という行為よりも、”学園から遠いところへ出掛けたい”というのが本当の目的であろうと我輩は推測する。我々の関係は残念ながらおおっぴらに公言できない間柄なので、なるべく学園から離れたほうがいい、と彼女なりに考えてのことだろう。
 そこのところは本人に聞けばすぐに明らかになる事なのだが、がせっかく気を使っている(と思われる)のだから、気づいていない振りをしよう。
 たしかにホグズミートなどに出たら、その日のうちに全校生徒に根も葉もない噂がふりまかれるだろう。悪いことに、その噂は根も葉もある噂なのだ。だから我々はホグズミートには行けない。
 べつに、部屋にこもりきりの休日でも、我輩はいっこうにかまわないのだがね。

 そしてその買い物の後、我々は案の定、地下への階段を下りていった。
 観光客がたむろしている大通りとはかけ離れたバーで、ネオンの光が控えめに点滅していた。我輩としては、蝋燭の光が格調の高さを装いながら揺らめいている店のほうが好みなのだが、はジャズよりもロカビリーが店内に響いているほうを選びたがる。
 我々は暗い隅のほうの席を選び、ほとんどの物で満たされているある重い買い物袋(吐き気のする深緑と金のチェック柄!)を床に置き、ウエイターが注文を聞きに来るのを待っていた。
 は先ほど我輩に買わせた雑誌の中の中東やテロリズムに関するニュースのページを飛ばし(我輩にはそのような雑誌に、”政治”などという単語が記載されていることが軽い衝撃だ)、今秋冬のコートを購入するさいに注意すべき事柄を真剣に検討しながら読み、今週の新譜の紹介記事で指を止めしばらく眺めていたが、望みのものを発見できなかったらしく、またページを送り巻末の星占いをつまらなそうに目で追い、最終的には雑誌を閉じた。
 我輩はそれを小さなテーブルを挟み、正面から眺めていたので、雑誌を閉じて顔を上げた彼女と目が合った。は目を細めてほほえんだ。完璧に人好きのする笑顔。たぶん彼女は我輩のような男達がポケットに小銭をいれて歩くように、服の隙間や衿の陰に魅力をさりげなくひそませて生活しているに違いない。

 すると時給10ポンドそこそこだろうと思われるウエイターがこちらへやってくる。
 神経質そうに鉛筆の消しゴムのついているほうを咥える仕草は、世界的にずばぬけて母親に最高の価値をおき、乳離れのできていない傾向の男性のおおいイタリア人のようだ。
 はそのマザコン男にこなれた態度で(一度かってにに二コラシカを注文させて、彼女の反応を見てみたいような気もする)フルーツワインをグラスでオーダーした。
 やれやれ、生徒がアルコールを飲むことを黙認するとは、我輩も堕落したものだ。
 辛めの白、と言おうと思ったのだが、なぜか「エッグ・ノック」という単語が口からすべり出た。
「ホットで?コールドで?アルコール?ノーアルコール?」という彼の問いには(単語の語尾をすべて上げるしゃべり方には殺意を覚えたが)ほとんど無意識で「ホット、アルコール」と答えた。
 かるく会釈してマンモーネは去って行った。(マンモーネとはイタリア語でマザコン男の意味である。どこか怪獣を連想させる言葉の響きは、オリーブオイルまみれで大柄の毛むくじゃらなイタリア人の描写にとてもあっていると思う)

「エッグノック?」
 は若者がよく使うような、”信じられない”とか”くるってる!”とか、とにかく”クール!!”とか言う時の口調とは真逆の語感で、あきれるように言った。
「悪いか?」
 どうやらMTV信者である彼女は、エッグノックとは飲み込んでカロリーとして摂取するものではなく、吐き出すものと信じているらしい。まったく。『ビデオ キルズ ラジオスター』を変なところで実感してしまった。意味が違うが。
「でも、クリスマスみたい」
 たしかに現在は四季を通して飲まれているが、やはりクリスマスドリンクという印象の強いこの飲み物だ。我輩もそのようなイメージを持っているが、
「たまに、むしょうに飲みたくなるんだ」
 は肩をすくめる。我輩は苦笑して、どうでもいいような無難な話題を探す。彼女はむしろ会話よりも直接的なふれあいを好んだが、人目を気にせずに楽しむということに、我輩はいささか年を取りすぎている。と彼女に言ったら、はすこし不服そうな顔をして「先生にはとっくに倫理観なんてなくなったんだと思ってた」などとわけの解らない事を言い出したので、少し笑ってキスをした。は満足そうに微笑む。
 しかしものごとはそのように単純ではないのだ。さらに舌を深く差し込んで舐めたら、今度は彼女が避けようと身体を引いた。腰をつかんで引き寄せる、は我輩の胸元を手で押しのけようとするが、そんなことはほとんど抵抗にならない。存分にくちびるを嬲ってくちびるをはなし、「君が望んだことではないか?」と低い声で問い掛けると、は先ほどの雑誌を我輩へ投げつける。かすかな涙目で、怒りながら笑って。
 ばさりと床へ落ちた雑誌の音に、数人の客が振り返るが、すぐに目を泳がせる。 
 我輩は苦笑し、雑誌を拾い上げてテーブルの上へ置く。
「ほら、先生には結局、倫理観が欠如しているんですよ」
「さよう、だから我輩はいまだに教師という職についているのだ」
 視線を上げると、さきほどのウエイターがもの言いたげに、二つのグラスを持って立っていた。




「エッグノックなんか、どこがおいしいのかわかんない」
 は冷えて甘いシロップのようなアルコールを舐めて言った。
「べつに、我輩もうまいとは思わん」
 我輩は平時にエッグノックなど、季節の行事のアイコンを好む。
 クリスマスやイースターなど、そのときにはまったく見向きもしないのだが、12月ごろに急にテントウムシの形のチョコレートを買ってみたり、いまのように真夏にエッグノック(しかもあたたかいほう)飲んでみたくもなる。

そのようなクリスマスを連想させるものを摂取したくなった時は、、学園の屋敷しもべ妖精に作ってもらうことにしている。
 彼らは季節はずれのリクエストに「yes sir」と応じてくれる(もしかしたら、季節はずれという概念がないのかもしれない)。そのたびに我輩は「口でshitをたれる前にsirと言え」という言葉を思い出して心の中でひとり笑う。たぶん何か映画のセリフだったと思うが、シンプソンズで引用されているところを見ただけかもしれない。
 生徒が愚痴をたれているときに言ってみたくなるのだが、言ってしまうとどんな噂を流されるかわかったものではないので、いつも言えずにいる。教師とはまことに神経を使う職業だ。
 
 とにかく彼らしもべ妖精は、まるで命令に従うことが名誉だというふうに、すぐに部屋にとどけてくれる。クリスマスプディングを作らせたところ、いちおうその食べものが特別なものだと言う知識はあったようで、緑や銀のリボンがかけてあった。彼らの健気なサービス精神は時に涙を誘う。彼らはいったいどこからこのリボンを手に入れてきたのだろうか?
 そのリボンを捨ててしまうのは、彼らの仕事に対する姿勢を軽視してしまうような気がして、処分することが出来ずに、机の引出しの片隅にもう3本もたまってしまっている。
書類など、仕事に必要なものを作成する時に引出しからペンやらなにやらを取り出そうという時に、不意にそのリボンに指先が触れるときがある。そしてまた我輩はエッグノックを取りに厨房へ足を向けるのだ。

「じゃあ、クリスマスが好きなの?クリスマスの気分になりたいの?」と問われれば「違う」と即答することができる。
 むしろ嫌いである。クリスマスが嫌いだとおおぴらに主張する人間は、人間性を疑われがちなので、我輩はひっそりと嫌うようにしている。それに、うかれさわいでいる幸せな人たちの横でわざわざ彼らの機嫌を損ねる必要もない。
 しかし、特定の神を信じないアナーキストな我輩としては、他人の誕生日を祝う余裕などないのだ。(もしも神が存在していて、運命を整列させているとしたら、今の時代はいったい何なのだ。神は人間の指導者よりも不公平な人事をおこなっているように思えてしかたがない)
 たぶん我輩はクリスマスのアイテムを日常時にたしなむことによって、クリスマスの神聖さをうすめようとしているのではないか?と、はまるでセラピストのように分析した。あながち間違いとはいいきれない。
「先生はひねくれてるから」と先ほどの仕返しのように彼女は言葉を指す。
「それでは、ひねくれた大人は、ひねくれた態度をとろうではないか」
 の腕を掴み、引き寄せてくちびるで首筋をなぞる。暗い店内は自分達のことで精一杯な人々が集まっているので、とくに何も気にすることはない。ただ声をあげなければいいことだ。

 我々は自虐的な冗談で笑いながら罵りあうことによって、自分達の責任と倫理と罪悪をうすめようとしている。 















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ヒロイン放置気味な愛国心ありすぎなスネイプ先生エセ文学風味ふたたび

つか、あれですね、goodbye yellow brick roadみたい
(最期の一文で鬱っちゃた方は上記を読んでいただければ落ち着くんじゃないでしょうか)
この人たちがあそこに行き着くんでしょうか
たぶんそうだとおもいます
はやくふっきれちゃえばいいですね

そしてZZ TOPを聞きながら書いてる時点で神聖視も何もあったもんじゃないって


トラ


2004/8/10