「くんなくんなくんなくんなーーーーーーーぁ!!!!!!!!!」
それはグランド中に広がる絶叫、そしてそれを発しているのはまぎれもない私自身。
「往生際が悪いね、!!おとなしくついてきてよ」
そしてそんな私を、顔色ひとつ変えないまま追いかけてくるのは、不二周助。
ただいま借り物競争中。
いつでもどこでもどんなときも、こうして不二に追いかけられるとき、私はそれはもう全速力で走り回って駆け回って考えながらも逃げ回っている。
だけどだけれど不二は、少しの余裕を持って私を追いかけることを楽しんでいる。
いつでも追いつけるくせに。
いつでも捕まえることができるくせに。
っだーーーー!!!!腹の立つ!!!!!!!!
「とぉっ!!!」
「きゃあ!!」
グランドに立つハードルを優雅にこえる陸上部員のように、私は群集を飛び越える。
もちろん手は使ってますが。
「やるね、」
してやったりと、笑うけれど、それでも足を止めてはいけないと思うのは、本能か。
私はそのまま観客席に向けて走り出す。
後ろからついてくる足音は、消えない。
『おぉーーーっと、ハプニングかー!!!』
突如、放送席からあがる声に、はじめ呆気にとられていた人たちも、気づいたように声を上げはじめる。
それはそうだろう、借り物競争中グラウンドを駆け回る生徒と、それを追いかける生徒。
まぁ、追いかけてくる方は、借り物競争真っ最中な人なんだけどね。
グランドと観客席を区切るロープの下をスライディングで通り抜ける。
わずかな隙間をすり抜けて、人ごみの中を通り、それでも私はまだ走る。
『追いかけてる不二君は、中学時代テニス部で全国大会でも好成績を収めた人物でもありますが、それをものともせず逃げ回ってる彼女も相当なものと受け取れますね!!』
『そりゃああのふたりは中学のときからしょっちゅうあんな感じで走り回ってましたからね!』
「てゆうか聞き覚えのある声だぞ、に菊丸ーーーー!!!!」
もいっちょ絶叫。
お前ら放送部だっけ!?
「立ち止まるなんて随分余裕を見せてくれるんだね」
すぐうしろから聞こえた声に、私は慌ててまた走り出す。
まだ…まだ捕まるわけにはいかない…………!!!!!
『てゆうか不二君の借り物は、いったい何なんでしょうね』
『とか言ってる間にもちゃくちゃくと他走者は借り物ゲットしているのですがね』
『そうですね、時間も押してますねぇ』
早くつかまえろー!!との無常な声も、また響く。
夏も間近な天気の良い日に、外で、全力疾走って辛い、辛いよおかーさん!!!
周りからの大歓声、汗、そして弱まることのない日差し……
「ふふふ……」
後ろから迫る声!!!ヒィ!!!!!
観客席をぐるっと回って、
来賓席を潜り抜けて、
借り物競争係りの手塚を盾にして、
放送席の近くを通ったついでにあのふたりを睨んでやって、
それから。
足がもつれた一瞬、前のめりに倒れてゆく私を支えるように腕が伸びてきて。
遠くでの実況が流れるみたく聞こえた。
みんなの歓声も、景色も、なにもかも。
「つかまえた」
耳元でゆっくりと聞こえた、不二の声以外は。
負けた。
あがった息と、疲労。
されるがまま私は不二に抱きかかえられて放送席近くへと連れてゆかれる。
その、その手にもたれた白い紙がそこに立っていた手塚に渡される。
借り物が、書かれた紙が。
手塚のひとつのため息とともに、それは放送席にいたと菊丸に渡されて。
『にゃんとっ!!!不二選手の借り物は、"好きな人"でした!!!!!』
『あはは!愛ですね、愛!!!!!!』
「んなっ!?」
目を見開いて不二を見れば、それはそれは確信的に笑っていて。
笑っていて……わらって……いて…………。
沸き起こるグランド中の大歓声、それは完全なるヤジなわけで。
始まったばかりの運動会、午前中に身も心もすべて疲れきってしまったなんて、初めての苦渋を飲まされた。
「あんな紙、入れましたっけ?」
そんな大和祐大の声は、ヤジな歓声に掻き消されてしまったけれども。
あー…てゆうか高校でも公認になっちゃうわけ!?