「そうだ、席替えをしよう」
…まぁたなにか考え付いちゃったよこの人は。
いきなり、前触れもなく、唐突に。
しかもイチ生徒が言ったってどうにもならないようなことを、まるで今からケータイを開くぐらいにお手軽な程度で言って。
にこやかに笑う不二の顔を見て、私はいつものように無表情でため息をひとつ落っことした。
いちゃいちゃ☆パラダイス8
季節外れの席替え
席替え……それって季節の催し物みたいなもんじゃなかったっけ?
出席番号順の一学期に、夏休み明けの席替えと、最後に冬休み明けとで。
まぁ…月ごとに変えるクラスもあるけど………
担任の方針よねー、あっはっは。
なんて笑ってる場合じゃなくて!
ウチのクラスは学期ごとでしょ。
先生4月に言ってたじゃない。
だから夏休み明けでもない、ましてや冬休み明けでもない、こんな、なんでもない時期に席替えなんて、あるはずないじゃない!
キッ、と目の前の不二を見やるけれど、
「僕に不可能はないよ」
と、不敵に目で語る不二に背筋が凍る。
やる気だ。
やる気なんだ、コイツ……!
そんな不二をどうして私が止めることができるというのでしょうか……!
あまりの怖気にもはや私の意識は諦めの境地に入りかける………
けど、諦めちゃダメだ!
今ここで諦めたら不二の思う壺になってしまう!
でもっ………!!
夏も間近にふきだす冷や汗に、内心怯えまくり。
この心中、どうなるものかと!
教室の入り口でこちらの様子を伺ってる先生ならわかるよね?
ええ、先生。
貴方だって、
私だって、
何気なく視線と顔を逸らしているクラスメイトのみんなだって、そう!
不二周助という狡猾な人間の手の内で転がされるコマなんだ!!
「やだなぁ、。まるで僕が独裁者かなにかみたいな言い方しないでよ」
なぁに言ってんだ、まんまそうじゃないか!
……………………ってこの男はまた人の心を読んでるし!
もう、死に際でもないのに走馬灯のように流れる悪夢の日々。
あの時も、
この時も、
その時も!
不二が思いついたように言った一言は、なにもかも計算し尽くした上で言葉だった。
なんていう計算高さ、
なんていう狡猾さ、
どうして天はこの男に一物どころか二物も三物も与えもうたか!
差し引かれた性格の悪さと腹黒さは確かにそれに値するかもしれないけど!
でも、
でも今日こそはその計算をすべてひっくり返してやる!
なんてことは出来ないだろうけど、せめて!
一太刀くらいは………!!
「あはは、に噛み付かれるのかぁ」
だぁーーーー!!!!!!!!
なに馬鹿みたく嬉しそうに笑ってるんだ!
えぇい、覚悟しやがれ、不二周助!
「やったろーじゃないの!!」
高らかに言い放った私に、にぃーっこりと笑う不二。
まるで自分の思うまますんなりとことが進んだことに満足したとでも言わんばかりね。
ええ、いいわよ。
今日は逃げるではなく受けたって勝負してやろうじゃないのよ!
教室の外では、がっくりとうな垂れた先生。
いつもは真っ先に私が止めて逃げて被害こうむるんだものね。
例え先生だろうが鬼だろうが魔王だろうが、
不二周助という男を止めることなど不可能。
だったらひとり負け犬めいて、用意周到に張り巡らされた罠にはまるよりは、
全員道連れの方向で行こうかと!
……………………って、道連れとか言ってる時点で負け決定じゃないの!
違う、違うよ、私!
息を大きく吸って深呼吸!
すーはー、すーはー、すーはー、
ヨシッ!
塵も積もれば山となる、枯れ木も山の賑わい。
多勢に無勢でかかれば大丈夫かもしれない!
一太刀、そうよ一太刀!
奇跡の一太刀を私に与えたまえ!
だからお前ら私のための犠牲になれ!
うおぉっしゃー!(気合)
気合を入れると同時に鳴り響く、ホームルーム終了の合図。
すなわち、1時間目の予鈴。
結局先生が教室内に現れることもなく、
委員長の号令が聞けるはずもなく、
クラスメイトの顔は俯きかげんなまま、
ホームルームは終わった、ということだ。
「じゃあ、みんな順番にクジ引いて」
にこやかな笑みに、一体何処から出したとでも言うのか、
そのクジ。
いいや聞くまい。
聞いたってどうしたって、不二に理屈を求めちゃいけないんだ!
アンタは用意周到すぎる!
というか、担任の主張とか実権とかって一体どこへ行ったの!?
どうしてアンタがすべて取り仕切ってるの!?
「昨日が乗ったらしてもいいって、話つけたからさ」
恐るべし、不二周助!!
狡猾にも先生の期待と予想を裏切った方向に私の思考を持っていったとは!
自分で考えたように見せかけて、その実私の思考はすべて不二に誘導されていたんだ!
なんて恐ろしい!!
怒涛のように流れゆくえもいえわれぬ感情と重なって、後ろで本鈴が鳴る。
いわばそれは試合開始のゴング。
私と、不二との戦いの火蓋は今まさに切って落とされた!!
負けるもんかぁ!
逆らう気力もなくしぶしぶとクジを引いていくクラスメイトに、
むしろ楽しんでしまえと言わんばかりにはしゃいでるクラスメイト。
天よ、神よ、天照大神よ、私に加護と運とチャンスを与えたまえ〜!
どうにでもなれとばかりに教室の扉の前で座り込んでいる先生に、
うきうきと楽しそうな笑顔でクラスメイトにクジを引かせている不二周助。
神様仏様サージャリム様、この際悪魔だって構いやしない!
私の目の前で不敵に、絶対的な自信でもあるかのように笑う不二!
私は真っ直ぐ対峙して、奇跡の一太刀を祈ってそのクジに手を伸ばす!
ちぇすとぉおおおおおぉぉぉ!!
空気中を漂う小さな埃が、
引いたくじの掠れる細い繊維が、
むしろ空気そのもののミクロな粒子が、
白い帯となって私の目には見えた!(ような気がする)
「7ばぁン!!」
と言えば窓際最後列の誰もが羨むベストポジションゲットー!
うぉっしゃーぁあ!
思いのたけの気合をただひたすら込めて心の中叫んで、
それから視界の端に捉えたのは、
片手に白い紙を持って、それはもぉ本当に満足そうに笑う不二。
そんな不二の笑顔に背筋を凍らせつつ、
引きつる顔がなにか予感めいて先走りする。
なんか………
まさか………
「14番、ラッキー……だね」
「アイターーーー!!!!」
頭のこめかみと言わず心臓と言わず痛いところを所構わず突いてった不二の言葉。
14番は、7番の隣の席なんですヨ!?
完全敗北とはこのことか?
負けた……なにもかもが!
奇跡の一太刀はどこいった!
バカヤロウー!
神様仏様サージャリム様、私なにかしましたかー!?
それとも悪魔にすら頼み込んだのがいけなか…………………………………………ったんだな!
迂闊だった、
そうだった、
悪魔は他の何者でもないこの男なのだから!
授業開始もままならない1時間目。
半ば不二の授業テロと成り果てて。
そういや1時間目は担任が担当だったなぁとも思って。
「……私ってなんなんでしょう……」
ぼそりと呟く新米担任の言葉に、
深く頷いて、
私は不二を睨んだ。
それから2度と、このクラスでは席替えは行われなかった。
たった15分ですべてを狡猾に計算どおり動かす男、不二周助。
「次は負けるもんかぁ!」
にやりと笑う不二を、私は忘れない。
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企画参加御礼リクエスト夢小説、魃さんへ。
いちゃぱらはなかなかに不二が素敵に黒くないといちゃぱらじゃないんです。
ただの怖い人じゃないんです。
黒い人なんです。
腹ぐ(もういい)
2003/8/4