03










「わぁ、ちょっと待て! ストップストップ!」
「うるさい動くな!」


 ちょこまかと逃げ回る乱馬にひとつ拳をふりおとしてやらねば気がすまないと、は乱馬を追い掛け回していた。クリスマスのヤドリギ伝説なんて、イベント好きの女の子達ぐらいしか興味がなさそうなのに、急速に街中を駆け巡って今や誰しもが知る都市伝説のようなものになってしまった。それを裏付けるかのように、乱馬とあかねの仲を進展させようと目論む早雲と玄馬は天道家の庭の木全てにヤドリギを寄生させていた。クリスマスの夜は思う存分好きなだけ仲良くキスしなさいってか。とても親の進めることじゃないでしょ、なんてはあきれて見ていたが、事の発端はそうかこっちだったのかと分かってしまえばすべての怒りはまっすぐ乱馬へと向かった。


「動くなって言ってんでしょーがっ!」
「わぁっ」
「商店街の方からっ、とんでもない叫び声が聞こえてきたんだけどっ!」
「あー、まー、いやでも俺は知らねーなぁ」
「白々しい!じゃあ乱馬、あんたなんで女のほうの姿で帰ってきたのよ!」
「あははははー」
「このぉ!」


 うまいことの攻撃をかわしていく乱馬は庭中を動き回り、ついでといわんばかりに早雲たちが寄生させたヤドリギを取っ払っていくものだから抜け目がない。ムカつく、だが助かるのはも一緒だ。ヤドリギだらけの天道家の庭は、にとっても逃げ場のない窮地へと変わってしまう。


「ああ…せっかく寄生させたヤドリギが…」
「あんなもん寄生させてなんになるって言うのよ、お父さん」
 悲しそうに呟く早雲を、冷ややかな目であかねは問い詰めた。いやあ、としどろもどろに口ごもる早雲は何もいえない。
「おじさま、あとおやじ! あかねにキスする誰かが、乱馬とは限らないでしょ。こんな状態じゃあ、どこの誰とも分からない不埒な輩もウェルカム!って感じで危ないと思いまーす」
「うう…む」
 唸る早雲など見なかったことにして、乱馬は取り払ったヤドリギすべてを庭の隅で燃え上がる焚き火の中へ放り込んだ。冬にもかかわらず緑の葉をつけたヤドリギは、虚しいかな灰となっていく。
「クリスマスまでにこの街からヤドリギ全部処分したら問題ないだろ」
 けろっとなんでもないような顔して乱馬は笑う。やるって言ったら乱馬はやる。だからたぶん、街中のヤドリギは姿を消すことになるだろう。呑気に笑う乱馬に向けた拳を下ろし、腰に手を当てたは溜め息をひとつ漏らした。


「よし、じゃあそれで手を打ってあげる」
「おう」


 白い歯を見せ、にかっと笑った乱馬はそれから確かに約束を守り、クリスマスを目前にした街からはヤドリギの姿は消えた。








***






「んー、平和ねー」
 天道家の一室で、は大きく伸びをした。先の九能の叫び声事件から一週間、クリスマスを明日に控えた街の風景からすっかりヤドリギの姿は消え去った。これも連日、ヤドリギがあると聞きつけたならば刈り取り燃やし、処分して回っている兄、乱馬のおかげだろう。は頭上に怯えることなくひとあみひとあみ編み物に夢中に取り組むことが出来た。あと一段、それだけ編んでしまえば、大切なあの人に贈るプレゼントは完成する。口端のにやけっぷりも止まらないというわけだ、へへへ。


「顔、すっごい緩んでるわよ」
「そういうあかねはすっごい眉間の皺」


 まるで正反対の表情をつき合わし、向かい合ってああでもないこうでもないと針を進めていたのはなにもだけではなかった。あかねも同様に、赤いマフラーを編みすすめている。…まあ相変わらず不器用なりの一生懸命さがひしひしと伝わってくる出来ではあるのだけれど。


「あれ? あかねここ編み飛ばししてる」
「っだー!」
「三歩進んで二歩下がるって感じだね…」
「なんなのこれ!もう!」


 もはやあかねの思考はパンク寸前のようで、苛々しているのは目に見えて分かった。それでも辛抱強く何度も何度もやり直しては進み、やり直しては進んでいく姿はなかなか愛のこもった姿だな・と、は微笑ましくさえ思った。


「愛がこもってるねー」
「えっ!…えぇー…」
「投げ出したいのガマンして、一生懸命なあかねの姿見てたら、ヤドリギがなくたってキスしたくなっちゃう」
「なっ、なに言ってんのよ」
「と、乱馬の気持ちを私が代弁!」
「別にこれ、乱馬にあげるんじゃないし!」
「そうなの?」
「お父さんにあげるんだもん!」
「真っ赤なマフラーを?」
「そうよ!」
「乱馬の方が似合いそうなのに?」
ったら、もーっ!」


 顔を真っ赤にさせて怒るあかねは、それでもさきほどよりは少し気がまぎれたらしく、ひとつ深呼吸をするとまた真剣な目で編み物に取り掛かり始めた。もあと一息でできあがりなので、愛と気合を込めて針を交差させた。一段一列は今までの工程に比べたらあっという間に編みあがって、端の糸の処理をしたらもうおしまいだ。長い一本の毛糸は、こんなにも素敵なアイテムへと姿を変えた。その出来を満足そうには眺め、胸を撫で下ろし、いそいそとラッピング用のリボンへと手を伸ばした。

「出来たんだね」
「うん、あかねより一足先に」
 ブイサインを小さく振って、はにっこり笑った。やばいこれはもう、なにもしなくても後から後から笑みがこみ上げてくる。
「いいなあは器用で」
「あかねのだって、すっごい優しい感じが伝わってくるよ? …そりゃあお世辞にも売り物みたい!とは言えないけど…」
「ふーんだ、いいのよ。こういうのは気持ちなんだから」
 歪な形のマフラーを、あかねは大事そうに手で触れる。その横顔にちょっと見とれてしまったのは、なんだかあかねがすっごく可愛く見えたせいだ。見てるこっちが照れちゃうな・なんて思いながらは頬をかいた。


「ところでのそれ、やっぱりあの人にあげるんでしょ?」
 はっきりと聞かなかったけど・と、あかねはの顔を覗きこむ。あまりにまっすぐこちらをみるあかねの視線に耐えかねて、は不意に視線を逸らした。
「うん、まあはっきりとは言わなかったけど。これはね……」








「大好きな良牙君に」


「実は乱馬にあげようと思って」


「なんでだかわかんないんだけど、九能先輩に」










2011/12/21 ナミコ