06 「ててて…」 浴びた一太刀に眉を歪めるけれど、その後の乱馬はいたってふつう、久能の太刀を見極めながら完璧に避け、ひらひら舞う10枚の紙を次々と手中に収めてそれを見ていた。 「勝負の最中によそ見をするとは……なめてくれたものだなっ!!」 素早く強靭な突き、けれど乱馬はそれをふわりとかわしてこちらまで転がってきた。 「あかね…、…」 乱馬の目はじろりとに走り、隠れろと示唆する。 反してあかねへはそんなこともなくいたってふつうの視線を向けるのに―――。あかねはしばらくそんな乱馬を見て沈黙していたけれど、真剣に目を伏せて乱馬へと忠告を言い渡した。 「男を相手に本気を出したら、久能先輩本っ当に強いわよ」 「……オレも一言忠告しとくけど、」 「おめー、青いパンツは似合わね…」 「いっぺん死んで来い!!」 どかっと蹴り飛ばされた乱馬を待つものは久能だ、いやしかし乱馬も相当馬鹿というか状況を考えないと言うか…。 「乱馬は青より赤のほうが好きなだけだよ、あかねちゃん」 「そういうんじゃないと思うわよ」 「そーかな……」 ちらちらとあかねを見ると、突然あかねは小さな悲鳴を上げて驚いた。 えっ、なに―――と思って振り返ると、が隠れていた石像は無残な塊となって崩れ落ち、パラパラと細かな破片がふりそそいだ。 いや、そんなまさか―――戦況は見ていなかっただけれど、石像をこんなふうにしたのは久能の剣圧からだと取ることが出来る。 「ばか、どいてろ!!」 「もらったあ!!!!」 こっちに気を取られた乱馬に木刀が振り落とされるのが見えた。 あかねは前を向けと乱馬をたしなめるけれど―――まだ、遅くはないはずだ、きっと。 フワ、と軽くそれをよけながら乱馬は適所急所と呼ばれる部分に蹴りを入れていた。 動体視力だけは抜群にいいならでは見切ることが出来たことだ。 もっとも、見極めることが出来ても避けるだけの身体能力があるかといえば答えはノーなのであるけれど。 久能はニヤ、口端をあげたけれど、すぐに何事もなかったようにぱたりと地面に倒れた。余裕を見せ付けている乱馬だけれど、半分はやせ我慢だろうとは思った。 本当に大丈夫なのと言いながらあかねはぴし、とわき腹を弾く。その直後うずくまる乱馬を見れば明らかだろう。 「ところでさっきなにを見てたの?」 「なにか気をとられて……ん?」 「なによこれっ、なんであんたがあたしの写真…」 乱馬の手にする紙切れ10枚はどうやら写真だったらしい。しかもあかねの。 ちょっとした小遣い稼ぎだと舌を出すなびきをあかねはたしなめる。 その横ではそそくさと乱馬の手から写真をもぎ取って目を走らせた。 「けっ、まったく。だーれがそんな色気のねー写真ほしがるかっつーの」 あかねに向かって吐かれる暴言を後ろに聞きながら、の指先はふるふると震えるばかりだった。 10枚の写真のうち5枚はあかねのトレーニング中の写真が。もう5枚は無防備、かつ男の子っぽい格好で胸と足をさらけ出す女乱馬の写真が。 「なにこれっ!!!」 あれだけ人の姿で迂闊なことすんなって言ったでしょ!!!!というの言葉は乱馬には伝わらなかったのだろうか。 あかねと同調した殺気もろとも、共に乱馬に制裁を加えたのは言うまでもない事実。 惨たらしくも打撲脱臼した乱馬を骨つぎの東風先生の所に(粗雑に)運んだのは、まぎれもなくその手を下した張本人たちである。 惨い惨いと言いながら東風は先ほどからうんうん唸っていた。 あかねはバツが悪そうに俯いているし、けれどもこれっぽっちも悪くないと思っているはあかねのようなことは1ミリも思わず、ただ隣にいるあかねのことを見ていた。 この間ここの前に通ったときから気になっていたことだ。 もしかして、あかねは東風のことが―――そう思っても口に出さずにいたけれど。 「…あかねちゃんがやったの?」 「あ、あの……だって」 いつもと打って変わってしおらしくなるあかねに、乱馬はあきれたような顔をする。 「だって乱馬が悪いんだから。それに先生、あかねちゃんだけじゃないよ私もやったし」 ね、とがあかねの顔を覗くと、少しばかりもじもじとしながらでもあかねはうんと頷いた。 東風はあはは、と軽く笑って次々と乱馬に治療を施していった。 「きみ、乱馬君だろ?あかねちゃんの許婚なんだってね」 「それは親同士が勝手に決めたことで……」 「まぁ、まだ早いよね。二人ともまだ子供だし」 「あたしは……」 あかねしゅんと押し黙った。東風に子ども扱いされることに傷ついたのだろう。 もしもあかねがに言ってくれるのならいくらでも協力するのに、とは思っていた。 けれどそれを自分から言い出せるほどに器用ではないのがあかねなんだろうけど。 「なおった」 痛い!!と叫んでいたけれど、素早くかつ正確に治った乱馬の身体に、乱馬ともどもは感嘆の声をあげた。 「東風先生は名医なのっ」と力説するあかねはどこか誇らしげでとても可愛らしかった。 「さー、帰ろ帰ろ」 「すっかり遅くなっちゃったね」 怪我の治った乱馬を待たず、はあかねの手を引いて歩き出した。 あかねは東風に呼び止められた乱馬をちらちらと気にしていたけど、はそれから気を逸らせるように他愛無い話をふった。 「あかねちゃん」 「ん」 立ち止まって乱馬を待つ、というよりは二人の話が気になっているらしいあかねを見ては少しだけ苦笑した。 「あかねちゃんは可愛いし、少なくとも私よりは女の子らしいと思うよ」 「え?」 にっこりと笑う。「それに優しい」とつけくわえて。 はえへへと笑い、照れ隠しのように走り出す。 あかねも乱馬も素直じゃないから、今はまだお互いの優しいところに気がついてないだろうけど、でも。 「先に帰るねっ」 多分きっとそのうち―――わかると思う。 → 2004/12/11 アラナミ |