08










「ホームランを、打つ!!」
ピッチャーを前には高くホームラン宣言をする―――相手はあかね―――ではないけれど、さきほどあかねから点を取られたばかりだったのでとしてはなんとなく朝の延長戦がてらの憂さ晴らしなのである。


カキーン


おー、いい音だーーーーけども、小気味良い音をたてて飛んでいったボールは空しくもバッチリあかねのグローブにおさまっていった。ちぇー。
「すごいすごい
「中国で本格的な曲芸学んできたんだって?」
「拳法だっつの!!」
曲芸、という言葉にずっこけそうになりつつもは鋭くツッコミを入れる。
とは言っても乱馬ほど鍛えてたわけじゃないけど―――って何回いったんだろ。ああ、もう。


「ときに、乱馬君の好きなタイプって?」
「んー?」
「とぼけないでよ、妹なんでしょ。それくらい知ってるでしょ」
なんなのこの子達は!!ちょっと目が伏せ気味で怖いわ!!
「あかねがあんなふうに否定するもんだからこっちも望みありかなって思うじゃない」
「ぇえー?」
「乱馬君ってかっこいいわよ、運動神経もいいみたいだし」
女の子って……!!と内心叫びそうになりながらもはぐっとこらえた。
はっきり言おう。
乱馬が普通にもててることに私は驚いているのだ。とってもね。


「乱馬がかっこいいなんておかしいんじゃない?」
「えー、がおかしいわよ」
「いいもの見すぎたのね、今まで!!クラスの男子に比べたらいいじゃない、よっぽど!!!」
よっぽどって…そういうレベルなんかい。
激しく突っ込みを入れるのは心の中だけにしておくにしても……いやいやちょっと信じられないぞ。
信じらんない、ととにもかくにも頭をぶんぶん振っていたら「あんたの好きになる人はレベルが高そうねー」とか「久能先輩だって顔だけはいいじゃないのー」とかとんでもないことを言い出す始末だ。
顔は良くたって性格に難ありだったら嫌だって、絶対。
てゆうか久能は嫌だ、たとえ世界にただひとりの男が久能だけだったとしても。


「てか、私好きな人いるよ?」
けろりと、まるで呼吸をするように自然には答えた。
を囲んでいた彼女たちは目をまんまるに見開いて―――言葉も出ないのか。失礼な子達だな、そんなに意外だってのかなー。


「えー、誰よ誰よ!!!」
「かっこいい?どんな人?どこの学校?」
と思ったら即効で回復してきやがったよ、しかも力をつけてきました。
うわあ、すごいなあ、どこから湧いてんだろこの力は!!
「かっこいいよ、強いし―――」
は手を伸ばし、みつあみを撫でてからその延長線のようにその先にあるリボンを触った。黄色をベースにしした、スクェアの重なりが黒い模様になったリボン。


「どこにいるのかなー…、り」「チェンジ!!」
ああ、またもやあかねがボールをキャッチしたらしい。ピッチャーが交代になる。
たちはベンチから離れ、それぞれのポジションに入っていった。


カキーン


トップバッターがいい音を立ててボールを打った。
しかし飛んでいった先は前方ではなく、やや斜め後ろの、……乱馬の頬で。
トップバッター天道あかね、ナイスヒット!!!ナイスデッドボール!!!










「ごめんね、まだ痛い?」
「あはははははははは!!!」
乱馬を心配するあかねの横で、はただひたすら笑い続けていた。
ヤバ、笑い死にそう。
しかしそれを止める人もおらず、当の本人は横を向いたまま考え事をしているらしい。
まあ首が横を向きっぱなしなのはボールが当たったせいで元に戻んないだけなんだけどね。
それにしてねあかねったらすごい、最高!!狙ったってこんなことなかなかできないのに!!!
「もー、30回もあやまってるのに!!」
「てかボールを避けられないほどなにを考えてたんだかねー」
キシシ、とからかい笑うその道の先に見慣れたパンダを発見した。
しかも竹箒で掃除なんかして……。


「おやじ?」
「なにしてんだ、こんなとこで」
こんなとこで、と横を向けば骨接ぎの看板が目に入る。
……まさか、今朝言ってたバイトっていうのは……。
タイミングよく玄関から出てくる東風は、たちにパンダをざっと紹介した。
今日からバイトに来てもらっている早乙女だと。


「へぇー、ふたりのおとーさんだったのか。あんまり似てないね」
「あはは、当たり前ですって!!」
なんでパンダの親父に似てなくちゃあいけないのか。つか、パンダの方の親父に似てたら問題っしょ。
「乱馬君顔どうしたの?」
「体育でちょっと…」
よく効く塗り薬をあげると言って、東風は部屋を後にする―――しかしなんだ。
連日でお世話になっててまるでここは乱馬の保健室のようだ、とは思った。


その思考の後ろでリンリンと黒電話がなり始める。
「あっ、すいません早乙女さん電話とってくださーい」
奥の方で親父に言付ける東風は手が離せないんだろう。親父はパンだのまま黒電話を取る―――。
「………親父?」
いつまでたっても喋らない親父―――がパンダは喋れないという事実に気がつくのは数秒経ってからだった。
「取るなよ最初から」
「きゃはは、てゆーかさっさと元に戻ればいいのに」
ぐぬぬと冷や汗を流しながらも苦悩する親父を乱馬とからかっていると、電話で用だったことを聞き終わったらしいあかねが「先に帰る」と言い出した。
「えー?」
振り向いたときにはもうあかねはぱたぱたと玄関へと向かい、乱馬はそれを追いかけていた。
「うちでなんかあったか?」
「そーゆーわけじゃ…」
「じゃーゆっくりしてけばいーじゃねーか」


「おめー先生が好…」
きっと乱馬は好きなんだろと続けようと思ったに違いない。
だけどあかねはそれを乱馬の口を塞ぐことで阻止した―――「やめて」
神妙な面持ちだった。そしてそれはすぐに俯いてしまったからもう見ることはかなわない。
「東風先生好きな人いるんだから」
「!!」
「今の電話…これからすぐ来るって……」
「……………」


なるほどそういうことかと出るタイミングを失った私たち―――つまり私と親父は二人の死角に入る壁際でこっそりとデバガメをしていた。
東風先生、好きな人いるのか……しかもこれからすぐ来るって―――。
親父を見ればこっそりと覗きつつその心情をあらわすかのようにドキドキワクワクなんぞ書いてある看板なんぞ持って―――いやだから戻れよ、その方が早いっちゅーに。


ガラララ


「ごめんください」
開かれた玄関からは女性の声がした―――これはもしや、東風先生の好きな―――?
と目を向けたそこにいたのは、着物を着込んだ小さな――――


「しぶい……!!」


絶妙にダブルサウンドで乱馬と言葉がかぶった。
なんてこったいこのおばあちゃんが東風先生の想い人!?しぶい!!!
なんていう気持ちはおおいに重なったらしい。


「ち・が・うっ!!!」


鋭く突っ込みを入れてくれたあかねに感謝するばかりである。
よかった、東風先生がババ専じゃなくって!!!










 


2005/6/19   アラナミ