01





 果し状。
 俺は今、山籠もりの特訓をしている。
 明日天道道場にいくからな。
 首を洗って待ってろ。


「なんだ、良牙の野郎か」
「えっ?良牙君がどうしたの?」
「なんでもねーよ」
「なんでもなくないでしょ!なによなんなの、隠しても無駄だからね!」

 隠すように身体の後ろに回した白い手紙を、は目ざとく見つけて取り上げた。

「お前なあ!」
「えーっと、なになに?あ!明日良牙君くるのー!?」
「来るわけないだろ、あの方向音痴。待ち合わせなんかピッタリ来れたら奇跡だろーが」
「うっ…確かに…そうかもしれないけど…」

 確かに待ち合わせとかするときは、むしろ迎えに行った方が安全というかなんていうか。

「いやまって!でも私とデートのときは、どうにか近くまで辿り着いてくれるよ!」
「へいへいゴチソウサマー。デートじゃねーし、果たし合いだし、いつもどーり1週間以上遅れるだろ」
「ぐぐぐぐぐ…!」



 良牙から届いた果し状を前に、乱馬とそんなやり取りをしたのが1週間ほど前。乱馬の予想通りいまだ良牙は姿を見せていなかった。



 場所は変わって猫飯店。うまい本場中華料理が食べられる店として、そこそこ繁盛している店に、それは現れた。
「うまそーなブタが落ちとった」
「それは得したあるな」

 びちびちイキのいい豚の色は黒。黒豚。それを見ながらシャンプーは、どこかで見たようなことがあるな、と思いを巡らせていた。はて、どこだったか…。
「まっとれよー。おいしい茹で豚にしてやるからな」
 ぐつぐつ煮立った鍋を目の前に、恐ろしいことを呟くコロン。ふとシャンプーは、あの黒豚はあかねとの飼い豚だったと思い立って、厨房へと足を速めた。

「ひいばあちゃんその豚、食べるの待つよろし」

 暖簾をくぐって厨房に足を踏み入れれば、そこは大惨事。煮立った熱湯の中には、良牙がいて。

「あいやあ」
「このばばあ何しやがる!」

 いきがって拳を振り上げたものの、あの乱馬ですら軽くあしらうコロンに良牙がかなうはずもなく、そのまま床に打ち付けられたのだった。










「なんじゃ、お主婿殿の友達か」
「友達なんかじゃねえ!こんな身体になったのは乱馬のせいなんだからなっ!」
「ほほー」
 忌々し気に悪態をつく良牙の言葉を、かき氷を作りがてら聞いているコロンの表情はポーカーフェイスで全く読めない。けれど、なにかを思いついたのであろう、唐突にコロンは良牙へとひとつの提案をした。

「どうじゃ、お主。わしと組んでみんか?」
「どういうことだ?」
「お主を鍛えてやろうと言っておるんじゃ」
「ふっ、ばかばかしい」

 コロンの提案を一蹴し、良牙はリュックを手に取り踵を返す。

「あいにく鍛えてもらわにゃならんほど弱くねえんだよ。あばよ、ばあさん」
「そうか、気が変わったらいでも来いよ」
「もう会うことはないさ」

 颯爽と良牙はその場を後にした。まだほんの、良牙がコロンの実力を、そして乱馬の成長を知らぬが故の言葉である。
 もう会うことはない、と良牙は言ったが、だがすぐにその目にかかることになる。だって良牙は驚異的な方向音痴だから。玄関を探すことですら迷うのだから。










2017/6/18 ナミコ