不二周助さまはそれはそれはおモテになられる。
この、アンド不二周助が所属する3年6組以外では。
ファンクラブもどきもあるもんだからある意味笑える。
だからそんな子達から部活中不二への差し入れなんて結構なもので。
だけど不二はそれをすべてやんわりと断って受け取らずにいて。

だけどだけどある日彼は思いかげない一言を申し上げたのだ。
誰でもない不二周助に恋する乙女たちに、一言。


「僕とゲームをしてみてない?」と。






  おうごんのりんご






「僕におうごんのりんごを差し入れてくれたら、キスをしてあげる」

いたずらっぽく笑う目は、不二の目の前にいる彼女らに向けられていると見せつつその実そのさらに向こうにいる私に向けられていた(と思う)。
キャア〜、と色めきたつ黄色い悲鳴。
付け加えるように「なぞかけだから」という不二の声も遠くながらにハッキリと私の耳まで届きました。
届いてしまいました。


振り返って不二を見ても、にこやかに笑っているだけで。


なにがしたいんだ。
てゆうかなにがいいたいんだ。



それから壮絶なる戦いが繰り広げられたのは言うまでない。







「またかよ、チッ」
あからさまに舌打ちをしてみせた私は忌々しい思いで教室の中を見る。
いつもはそれをたしなめるも、苦々しく笑うだけでなにもいわない。
はまだいい、離れているのだから。
だけど私は、私の席は不二の隣なわけで。
その不二はあの発言をして以来朝も昼も放課後もとにかく時間の許す限り他クラスの女の子たちに囲まれていて。
つまり私が自分の席に辿りつけないわけで。

邪魔。


「ははーん、それって嫉妬?嫉妬デショ、ちゃん☆」
3日前ふざけて絡んできた菊丸は、語尾につけた星と同じく星にしてあげたけど。





「不二君おうごんのりんごってこれ?」
「ねぇねぇこれでしょー?」
「あたし絶対これだと思うんだけどな!!」

「うーん、残念。ちがうよ」


「ねぇ、これでしょ?」
「じゃーん、おうごんのりんごだよ!!」
「どう?」

「うん、違うよ」


「これ、これでしょう!?」
「これじゃない?」
「どーかなぁ?」

「ふふふ、もっとよく考えてみてよ」





人ごみに埋もれるというのは正直好きじゃない。
てゆうか嫌いだ。
なにもしていなくても見るだけで体力が減ってしまうような気がするくらいな。

かれこれこんな会話が休み時間ごとに繰り返され、毎日のように繰り返され、それはどうでもいいのだけどなにしろ人ごみが!!
ごみのような人の数が押し寄せて同じ教室内にいると思うだけでいつもの万倍体力を使ってる気が……!!

これはなに!?
拷問!?
それとも作戦なの!?

ああもう作戦なんだろう、それがなにかとはわからないようなわかるような微妙なセンだけど、たしかになんかの作戦なんだろう不二!!
私をひっかけたいんだろう、落としたいんだろう、罠にはめてやりたいんだろう!!
わかってるよ、ここで行動を起こしたら私の負けなんだ!!
きっとすべて不二の思うとおりになるんだ!!
手の内の駒なんだ!!
操り人形なんだ!!

何度も何度も浮かび上がったふたつの選択肢を私は今一度目にする、正しくは脳内でだが。



一、このまま黙って衰弱する。
二、私はなぞが解けたと宣言する。



二を選択すれば彼の言った商品がこの場で与えられるでしょう、それも濃厚に、遠慮なく。
一を選択すれば私の身が危うくなるでしょう、そして彼にチャンスを与えるでしょう。


どっちを選んでも私の身は危険に晒されるようです!!!!!!
はぅあっ!!!


三、この場から逃げ………たくても人ごみが邪魔で動けない。





「どうしたの、?」
私の顔を覗き込み顔がどこか楽しそうだ。
きっと楽しいんだ、そうに決まってる。

「……べつに」
乗らない、乗るもんか、絶対にな。
これは言葉と意識の競り合いだ、気合と根性ですり抜けろ!!!!



















だけど私は強制的に二を選ばざるを得なくなる。
なかなか解けない謎にこれでもかというくらい興味本位の人間も集まったせいだろうか。
私の目の前にある人の壁に恐れを抱いてしまったのだから。





「差し入れは甘いものっていう先入観を捨てなさいよバカァ!!!!!」

涙目で絶叫した私の声を、不二はきっとしてやったりと思ったような、そんな顔で聞いていたに違いない。





不二は一言言っただけだ、そしてひとつのゲームをした。
乗ったのは周り。
動いたのも周り。

そして動かされたのは私だ。



あんた、最初っからこれが狙いだったんでしょう?











りんごとはちみつ恋をした☆ちょっぴり辛い差し入れなわけですよ。