この棘は君をとらえるためにここにある。






窓辺には不二の趣味で集められたサボテンがとりとめもなく騒然と、だけどどこか馴染んだように並んでいる。
棘、棘、棘。
そして後ろに不二姉弟、唯一の正当なる出入り口を塞いで。

「可愛いでしょ」
窓に足をかけかけて素早く引き摺り下ろされる。けれど不二はそれについてはなにもいわない。あえて言うなら後ろから由美子さんが危ないわよと言ったぐらいだ。
不二はそのまま私の横から離れず肩を抱き促して私の目と意識をサボテンに向かわせる。
促されるままサボテンに目と意識を向かわせた私は両隣挟むように不二姉弟に挟まれてしまったことに気付くのに一瞬遅れてしまった。


あ、あ、あ、なんか
落ち着かない!!!




「あら、このサボテン…」
「この間花をつけたんだ」
ホラ、と指をさしてさらに促すそれは、周りに置いてあるものよりひとまわりもふたまわりも小さく可愛らしく棘は少なく柔らかい。
へぇ、可愛いね。と言おうとしたときだった。由美子さんが私より早く口を開いたのは。

「これあんたちゃんの名前つけてたわよね」
「………………」





うふふふ、あははは。





「毎日好きだよって囁くと、サボテンは棘が取れるっていうから、君の名前つけてみたんだけどね…(ところで姉さんいつまでここにいるつもり?邪魔だから出てってくれないかなぁ)」
「へ、へぇ…」
「うふふ、いくら恋人でも勝手に名前付けちゃ嫌よねぇ、ちゃん?(お姉さまに向かってどういう口の聞き方かしらね、せっかくわざわざお茶を運んだって言うのに)」
「ん、んん?(あ、あれ?なんだろう…)」


私の肩を抱き寄せる不二の腕。
その反対側からやっぱり私の肩に手を置く由美子さん。



な……なんか…、冷戦中の国と国のど真ん中にいる弱小国の気分なんですけどーーー!!!





こういうとき、過去の経験上から見て取るにしても、本能的に取るとしても、というかむしろ本能が99%働いて取りたい行動というのが「逃げ」の態勢であるわけなんですけれども。
それはそれはあくまで1対1、サシの勝負でなくては万が一にも億が一にも私の勝ち目なんて相打ちすら怪しいところであるのですがっ…!!あるのですけれどもっ……!!!

今日は2対1(多分)。
このふたりに挟まれ、万が一でもこのふたりが仲違いということがあったとしても、そこは姉弟。

私が逃げ出したとたん協力攻撃☆なんていう恐ろしいことが起きたら私は今日生きて帰れるかもわからない…わからない…嗚呼そういえば下には不二のおかーさんもいたんだっけかーうふふ、あはは☆





コマンド選択:話を逸らす。





「あー、ねぇ不二!こっちのサボテンは黄色い花つけてるんだね!!!」
「ん?ああ、それね…」


よしっ!!つかみは順調、このままうまく話を逸らし続けること、それは今日の私の勝利につながる一歩!!!
きっとそう、そうなんだわよ!!!


「あはは、可愛いねぇ」
「気に入った?」
「うん、でも棘はちょっと多いんだね」
「フフフ…」


勝利は目前に、ここに来て初めての勝利を掴もうとしております!!
神様はちゃんと私の善行を見ておられた、憐れな子羊の処遇を考えてくださっていた!!!
あはは、あははは!!
由美子さんの言葉がなにもないことが少し怖いけど、ホラ、なんていうの、いつかは希望の光は降り注ぐものってネ!!!


「じゃあこれにあげる」
「え?えーと…いい、の?」


手渡されようとするそれ。
黄色い花をつけたまだ棘も鋭いサボテン。
受け取ったら花差は逸れたまま、完全勝利でしょうか。
そうでしょうか、そうなるでしょうか、わかりました、わかりました、そうすべきが神の思し召しなんでしょう。


「あ、ありがとー」
「どういたしまして」


受け取りました!話も逸れたままです!!
私の勝利、勝利なのですね!!
ありがとう、ありがとう、あはははー!!!


「そのサボテンは""と対になる"周助"だから、毎日好きって言ってあげてね(はぁと)」


天は私を見放されてはいなかっ……いなっ……いな………
いたかーーーーーーー!!!!!!!!





負けた…また私の負け…そして不二の勝利。
どんなに正当に私が勝利を目指しても、ことごとく裏をかくように信じられないようなルートでもって勝負の機転をひっくり返す男、不二周助。
私もまだまだ…まだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだっ……ぜんっぜん修行が足りないという…ことなんでしょうか。
これは神の与えた試練?いや、まさか。
神さえもひれ伏させて私の目の前に立つこの男、大魔王不二周助がいる限り、このような事態は続くってこと?
そんな、まさか、いや…だって……ねぇ。

にっこりとした笑みで、私を見つめる不二、その後ろで。
同じような笑顔をしつつ、うすーく憐れんだように私を見つめる由美子さんがいた。

この人もなんか私を見透かしてる!!!!




私は無駄だということも忘れて再び窓辺に向かって逃走を試みた。