無駄だった。


2階の窓に足をかけた時点で危ないという理由で引き摺り下ろされたのだから。
右に不二周助、左に不二由美子という豪華セットでもってナ。







  其れは新婚夫婦の午後のかひわ






注がれる紅茶は芳しひかほりでもつて目前に差し出され。
うつくしく並ぶビスケットは魅力的にわたくしを誘ふ。


右となりに不二周助。
左となりに不二由美子。


穏やかな笑顔を交わされながらすすむ茶事は、とても居心地が悪ひやうな気がしたのです。




だからなんとなく古典調口調で。
特に意味はない。





「やっぱり………」
笑顔をたたえてやまない由美子さんの顔がふいに真剣なものに変わった。
熱い紅茶の湯気ごしに私は少しドキリとして、それからじっと待った。



「ひとりめは女の子がいいわ」



「あつっ!!!!!!」




「あら、大丈夫?ちゃん」
「猫舌なんだから、気をつけて」
こぞって心配するふたり。
その気持ちはありがたい、ありがたいけど!!!


あんたのせいですよ!!!!!!


……口に出しては決して言えないけれど。



「だ、大丈夫です………」






気を取り直して、一口お紅茶を頂く。
はい、非常に美味にございましてよ。






「僕としては3人欲しいかな、できれば全員女の子で」



「グッ、ゲッホゴホグゥ!!!!!!」




「あらあら、大丈夫?」
「慌てて飲むからだよ、気をつけて」
こぞって心配するふたり、再び。
その気持ちもなにもすっとばして心では突っ込ませていただきましょうかっ!!!


あんたらのせいですよ!!!!!!


……これも口に出しては決して言えないけれど。



「ふ、ふふ………大丈夫です………」






気を取り直して、ビスケットに手を伸ばす。
はい、これもまた非常に美味にございましてよ。






はどう?」



「私に振るんかい!!!!!!」




「うふふ、そりゃあねぇ」
「産んでくれるの意見も聞かなくっちゃあ」
こぞって私を見るふたり。
右に不二周助。
左に不二由美子。

そういえば、3人って数はどこ言っても真ん中に挟まれてしまう数だったなぁと気づいたり。


不二の目も、由美子さんの目も、まっすぐ私を見て捉えて逃さないという意思を持っている。
多分、というかきっと。
私はなにか意見を述べなくてはここから逃げることも言い逃れることもできない。



「どうしたの?」

「イエ、ちょっと考えてますので……!!!!」




というか、私が不二の子供を産むというのはもう決定事項なんざんすか!?




も女の子がいいよね?」





その不二の言葉によって、私の頭の中に怒涛のようにこれからの未来のイメージが駆け巡った。
そう例えば、例えば私が数年後不二の子供を孕んだとして、それがもし不二の言うように女の子だったりした場合を考えてみるとしてもしもその子の性格が不二家の血筋の流れの如く例外を稀にしか見ない裕太君のような具合ではなかった場合を考えてみればそれはつまり性格不二似ということで容姿は間違いなく端麗系だとしても結局は性格は不二、不二なのだからそれはどうよ!女の子としてどうよ!!好きな人をハメて言いくるめて既成事実でも作り上げて一緒になろうとする娘だったらどうよ!!どうなのよ!!!
そう、それはあくまで予想なのに、予測してゆくとこうなるであろう未来なのに、どうしてこんなにも真実味があるように立体的つまり3Dのような想像でもって偶像のようになってしまうのだろうか、なぜなのだろうか……!!!


・・・
・ ・ ・ ・ ・ ・
……………………………










「お母さんはそんな子に育てた覚えはありませんよっ!!!!!!!」










産んだ覚えもないんだけどね。





「………………ハッ……私今なにを口走って……?」







この口から滑り出た言葉を取り消すことは決して叶わぬのです。
リアルな想像から帰ってきた私の目に入ったのは、それはそれは目をまんまるくした不二と由美子さんで。
むしろ私こそこの目を丸くしているに違いないのだと思うのだけれど。







「姉さん!!は産んでくれるみたいだよ!!!!」
「周助!!こんな子もう絶対現われないんだから死んでも逃がしちゃダメよ!!!!!!」








ワァ、死んでも逃げられない!!!!!!!









紅茶は芳しひかほりでもつて目前に。
ビスケットは魅力的にわたくしを誘ふ。


右となりに不二周助。
左となりに不二由美子。


穏やかな笑顔を交はされながらすすむ茶事は、とても居心地の悪ひ。
そして交はされるは、新婚夫婦にも似た、午後のかひわ。







この血筋とも言える性格から逃れられないと申すならば嫡男がよろしいかと存じますわ。