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降りしきる雨の中を猛烈な勢いで駆け抜けるパンダとおさげの女の子がいた。
そんな奇妙な光景に街の人は振り返らないわけがなく、いまや街中の視線を集めているパフォーマンスと化している。
いや、あのふたりにとってはいたって真剣そのものなんだろうけど。


「てめー、いいかげんに…」
パンダの追随に我慢できなくなったらしい か の じょ は、ついに荷物を放り投げ、強烈な蹴りをくらわす。


「しろよなっ!!」






ああ、可愛い顔してひどいもんだ、これじゃあまるで か の じょ が乱暴でがさつで単純でマヌケで女らしさのかけらもない武道馬鹿に見えてしまうじゃあないか。


「だいたいおれは、最初から気が進まなかったんだ!勝手に許婚なんて決めやがって!」
叫んだ言葉と一緒に一本背負いが決まった。硬い鉄の塊であるはずの標識を根元っからひん曲げて!!
あー、もう器物破損とか訴えられたらたまんないわよ!!馬鹿馬鹿、乱馬の馬鹿っ!!!
っと、そんなことを言っている間に勝負はついたみたいねー、さすがは親父!!腐ってもまだ乱馬に負けるわけがないか。


パンダは か の じょ を抱え、道を行く。ざわめきとひそひそ話しに渇を入れながら。
(当たり前だわ、明日の一面はこう!!暴れパンダおさげの美少女を襲う!!!)


さてさて、そして私はその後をついていくのみなのである。


















天道道場、と書かれた看板のある門を通り抜け、私達は彼の家に訪れた。
乱馬はもうすでに気がついてしまっているだろうけど、完全に虚をつかれた後だったから、もうどうしようもできないでしょう。
もっとも、私がここで親父の喉下に喰らいつけば乱馬の逃亡くらい朝飯前なんだけど―――私、乱馬の許婚とやらを見て見たいっていう好奇心があるので、とりあえず親父の片棒担がせてもらうっていうか、はやくお湯にもつかりたいのだ。


旅費ないからって中国から泳いでこさせるなんて信じらんない。こんなことなら別行動取ってでも客船に忍び込むとか潜り込むとかしとけばよかった!!
っと、しかし親父にとっては旧友との久しぶりの対面になるわけなんだ。キシシ、久しぶりなのにパンダ!!驚くだろうなぁ。
なんて思っていたら、往生際も悪く乱馬が暴れ始めた。もう、観念しなさいよね!!とたしなめのつもりで乱馬を叩こうとしたけれど、親父がそれを回避する。


ああ、そっか、今の私に叩かれるとただじゃあすまないもんね、忘れてたわよ!!
悪気はないって笑いかけると、乱馬も親父も心底訝しげな目でこっちを見た。しっつれいしちゃうなあ、ちょっと加減がわからないだけじゃないのよ!!
とか言ってる間に勝手に上がっちゃってるけどいいの?
迎え出てくれた人たちの顔が驚きと焦りで満ちていくのがわかる。
あー、天道さん逃げてるよ、親父!!でもまあ当たり前だよね。
暴れる人間を抱えたパンダが家の中に上がりこみ、その後ろを白虎がついてくるんだから!!


どん、と乱馬が一番前に置かれた。
今、人間の言葉を言えるのは乱馬のみ。




「きみ…もしや」
「早乙女乱馬です。すいません」


わー、花も恥らう乙女っぷりを発揮しちゃってこのこのぉ!!
我ながら口を閉じれば乱馬は結構いけてると思うの、てゆうかいけてないはずがないと思うの。
ああ、でも…乱馬は男って言ってるから…これは少しまずいんじゃないかい?
思った杞憂に私はやっぱりと頷く。


あれやかれやと女の子な乱馬に気付いて――――あれ?……おじさまショックで倒れちゃったじゃないの!!
説明してやんなさいよ、と乱馬を見るけれど、まだ訝しげってるっていうかためらってるようだ。
そりゃそうよね、そうすることは―――親父の言った"許婚"の件に同意を示すのと同じことだもんねぇ。


こりゃあ長くなりそうだと思った私はそそくさとその場から離脱し、縁側にうずくまって眠ることに決める。
乱馬がお湯を勧められるまで、おとなしくしていようっと。


















「ホラ、起きろ。
ゆさぶりをかけられてまどろみから目が醒めた。
不覚にも熟睡してしまったらしい。そりゃそうだ、中国から泳いで来たのだから疲れて当たり前なんだ。って言っても半分は乱馬の背中にいたけどね。
つーかネコ科の動物が泳げるかっての……って、親父は泳いでたもんなあ。


「かすみさんが風呂に入れって」
うにうに、わかったわよう。
乱馬に抱きかかえられて浴室へ向かった。リボンだけは取ってくれと願い、入り込んだ浴室では真っ先にお湯につかった。
「はあー、生き返るわ!!」
「お前はな」
嫌みったらしく乱馬は言い、水を被った。
冷たいと頭をふりながらもどうするか考える乱馬と全く同じ顔が浴槽の中にもある。


「馬鹿ねえ、正直に言えばいいじゃない」
身体冷えるわよ、と言えば生返事はが返り、女の子なんだから冷やすのはよくないわよ、と言えばたしなめの拳が飛んできた。
「まあともかく、私はもう出るから、よぉーく、考えなさいよ」
戸口を開けて、服を着る。
お湯に温められた肌はつややかな女の子のものだ。決して、先ほどと同じ獣の肌ではなく。


さーってと、親父をからかいに行くか、と廊下を歩けば少しご機嫌そうなあかねちゃんが向こうから歩いてきた。
「お風呂大丈夫だった?」
「うん、ありがとう。ちょうど良かったよ」と言葉を取り交わしてにっこり笑って、すれ違う。
あかねちゃんとはいい友達になれそうな気がするのだ。すごく。
ニシシ、と笑いが零れてそれからすぐ、私はあることに気がついた。


「あ、お風呂」


乱馬が入ってるんだった、と振り返った途端ものすごい悲鳴が聞こえて。
あー、あー、しまった。これは最悪のめぐり合わせかもしんないと、私はこめかみを押さえたのだった。






「キャーーー、キャーーー、キャーーー、キャーーー、キャーーー!!」






叫びながら走ってくるあかねちゃんに、どうしたの、なんて聞けるはずもなく私はただうろたえてしまうばかりなのだ。


「重しつけて風呂桶の底に沈めてやる!!」


あかねちゃんの騒ぎに、なびきさんとかすみさんまでもが出てきてあかねちゃんを取り囲んだ。
痴漢が出たと叫ぶあかねちゃんに、私はただもう頭を抱えたくなるばかりで。


「あの……」


聞き慣れたその声に、乱馬はやっと決心できたのかと思う。
いや、あかねちゃんに見られたことをキッカケに腹をくくったって言った方がいいのかな?


「あ…あなた」
「誰よ」




「早乙女乱馬です。すいません」




少しばかり照れたように言った男の子はまぎれもない男の子で、乱馬だった。
みんなの後ろにいた私をと乱馬を、みんなは交互に見つめてた。











 




原作に沿った連載の予行練習をしようと思って始めた。
とてもな重労働なのでびっくりです。
やってる人を心から尊敬する…本当に。

2004/11/2       アラナミ