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「あかね、今日くらいは練習はやめて、おとなしく英気を養ったほうがいーんじゃない?」
「まだまだやれるわよ」


 ふん・と、あかねは力強く試合前日の夜でさえ練習に励んでいた。いくら不器用といえども、連日連夜の膨大なる練習量と、そして優秀なコーチがついているのだから、見る目も張るほどにその技量は上達していった。…と言ってもここ二、三日、優秀なコーチさんは姿を見かけないのだけれど。


「ほんっと、が練習つきあってくれて助かってるのよ」
「そーおー?」
 軽くおしゃべりをしながら、こん棒を振り回し、笑いながらリボンを振り回す――――なんてことはもう手馴れたものだった。
「いやー、すげー上達ぶりだなー」
 偉い、なんちゃって乱馬はやっぱり傍らで軽口叩きながら見ているわけだけれど、いかんせんとあかねはそれが気に食わなかった。だから途中から標的が乱馬に摩り替わるなんていつものことだったし、また今日も振り上げたこん棒を乱馬に向かって突き立てるのもいわゆる日常茶飯事だった。


「言っとくけどね、乱馬!!あたし、あんたのために戦うんじゃないのよ!!!」


 ばしん・と、天井に張り付いた乱馬に、あかねがボールを投げつけた。とあかねの練習は、たぶん今日はもうおしまいだろう。ふう・とは息を吐いて道場の床に座り込んだ。
 あかねと一緒に練習するという名目で、もこっそりと鍛錬を積んだ。甘えた自分を引き締めるための修行だと思って、ちょこちょこと練習を手伝ってくれていた良牙にさえ、は必要以上に近づかなかった。それを察しているのかどうか、乱馬は静かにそれを見守っていたけれど。


「Pちゃん…?」


 ふいに気をそらされて、視界に入ってきたのは二、三日ぶりに見るPちゃんの姿だった。背中になにかを背負い、とてとてとのほうに歩み寄ってきた。なんだろうと、は子ブタを自分の方に引き寄せる。背中に背負った四角いものは、広島と京都のみやげ物、もみじまんじゅうと生八つ橋だった。
「どこに行ってきたの、Pちゃん」
 くすくすと、笑うに、子ブタはずい・と、もうひとつ、四角いなにかを差し出したので、はそれを受け取った。四角く薄っぺらなそれは、一枚のポストカードだった。古きよき古都の写真があって、くるりとめくれば、そこには、簡潔に――――


「……どこで良牙君に会ったの、Pちゃん」


 びくりと身体を強張らせる子ブタに、または笑って抱き上げる。元気出して・なんて、そんな心配されてしまうほど、気を張り詰めていたんだろうか――――。思い返しても、やっぱりはわからないのだ、自分のことだけに。や、でも、いつもよりは張り詰めていたかもしんないな・と、今はだらりと気の抜けきった顔でひっくりかえって手足を伸ばした。


 ――――私もそろそろ、腹をくくろう。


 だらけきって緩んだ顔で、でも考えていることは少し真面目だった。流されるまま、今に甘えるんじゃなく、しっかりと自分を持って――――


 どて


「ん?」


 ぱちん・と、弾かれたようには起き上がる。なにかが落ちたような、はたまたすべって転んだときのような――――音が。













2007/2/14 アラナミ