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 たぶん乱馬は気付いてる。友達と出かけてくるって言ったって、その顔を見れば信じていないことなどよくわかったし、実際はウソをついているのだ。出かけた先で会っているのは友達ではない。先日紆余曲折の末あって、恋人という名目に落ち着いた良牙とこっそり秘密の逢瀬を楽しんだ。今日だってまた―――。


 待ち合わせの場所から程遠い街中の木の上、は目的の人を見つけた。極度の方向オンチである彼は、9割9分の確立で約束した場所に辿りつけない。けれど、なぜかさいわいにも彼、響良牙は最近目的の場所に辿りつけないものの、その近くまではどうにか来てくれているみたいなのだった。愛の力だ・と、良牙は言う。そんな馬鹿な・と思いつつも今まで良牙を見てきたにとって、最近の良牙はやっぱりなんだか目覚しいので、あながち間違っていないのかも・と、バカップルぶりな短絡思考に落ち着いていた。
 かくしてと良牙の秘密の逢瀬は、まずお互いを見つけることから始まるから難儀なものだ。風林館高校前で・と、約束したけれど、高校から離れて商店街をつっきった公園手前の広場ポチ公前でお互いを確認したふたりはそして、しっかと手を握って離さない。できることならそのまま、一日楽しくデートして夕暮れ時にさよならをするまでは離れないいきおいで―――というのもいつだって好きな人と手を繋いでいたいということと、もうひとつ。目を放した隙にひとり良牙が道に迷って迷子にならないように・ということもあるのだけれど。
 そんな難儀である出会い頭をちっとも難儀とも思っていないと良牙は、にこにこ笑いながら歩き出し、スケートリングへと向かったわけだ。


 ここでひとつ問題提起したい。デートとは何か。
 が思うにそれは、恋人たちが共にいる時間をさすもので、決して恋人たちでどこかへ出かけることではないと思うのだ。だからは良牙と一緒にいられるならどこへ行っても楽しいし、むしろ別にどこかへ行かなくたっていいのだ。会って一緒にいることに意義がある。だから行ったスケート場でたとえ良牙が致命的に滑れなくても滑れなくても滑れなくったって!!!一緒にいることに意義があるのだ。




 けれど滑って奔走して人ごみの中に消えた良牙は、そのあと戻ってこなかった。探し回ったスケートリンクの端っこに、良牙の上着が落ちていたから、たぶん水をかぶっちゃったんだろうなあとは思っていたけれど。
 けれど別にそれだけじゃあの気持ちはこうまで最低ラインを突っ走らなかったわけだ。こんな、カップルありーの友達どうしてきておりーの夏の浜辺と変わらない若者の熱気溢れる場所にひとりぽつんと残されたは浮いた。すごくやっぱり浮いてしまった。こんなとこひとり来るって、部活の練習でもないくらいだ。浮いて目立ってあの容姿・だ。わっと集まったナンパやろうどもの間をするする滑っていっそ帰ってしまおうかと少し鬱になったところで。見た。は見てしまった。あかねに抱っこされていたPちゃんを。


 例えば・だ。それが不可抗力だとしても・だ。うっかり慣れないスケートに足を滑らせて取り返しがつかないほど後ろにすべりまくってぶつかった先がカベで、うっかりついまた壁際にいた男女のカッポー(仮定馬子さんと馬雄さん)がうっかり手を滑らせて飲みかけのミネラルウォーターを被ってしまって中国四千年の呪いのままにブタに変わってしまったやばいと慌ててお湯を探してブタの姿のままで奔走していたらばったりあかねと出くわしちゃってどうしたのPちゃん着いてきちゃったの・なんて抱っこされてそのまま逃げ出すのもアレでなすがままにいるのだとしてもっ……!!!!
 なんか気分よくないっ!!!!


 の気持ちはそれに尽きる。











「デートしてたんじゃないの?」
「…なんか……帰っちゃったみたいで……わたし、なんか悪いことしちゃったかなあ…」
 ぽつり・と、あかねに抱かれるブタを見ながらは儚げに呟く。酷く動揺しているさまが窺えたけれど、やっぱりの気持ちはアレに尽きるのだ。もう今日は始終投げやりでいい感じ。文体もそんな感じ・だ。


「えーなにー?デートしてたのっ!?だれだれどんな人っ!!?」
「ちょっとー、そんなの聞いてないよー?もしかして久能センパイとかー?」
「や、久能センパイとか有り得ないから!!!!」


 恋バナには、30メートル離れてようとも女の子には聞こえているもんだ。あっという間に友達に囲まれたは、滑りーの根堀り葉掘り、止まりーのアレコレソレコレ、休憩しーのありったけの話を引っ張り出されてしまったわけだった。そのあいだ、いつの間にかブタは姿を消していたけれど。


 そうしていなくなったブタに気がついたあかねが席を立ち、誰かに連れ去られてしまったという目撃証言を経て、今たちは乱馬の目の前にいるわけだ。










「……………なによ」


 ここにいちゃあなにかおかしいとでも?と、ことほかに言っているの表情に一瞬たじろぎつつ、乱馬は「別に」とつぶやいた。










 


2007/4/19 アラナミ