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「えー、なに?なんで乱馬も闘うことに―――って、許婚のあかねのパートナーなら乱馬が当然ってことかぁ」


 にやにやと、乱馬とあかねが帰ってくるなりは今日の一件を持ち出した。たぶんふたりは絶対に口を割らないだろうけど・と、ふたりが帰宅する前にあきこから電話によてもたらされた情報はとても面白いものだった。少なくともにとっては。


 コルホーズ学園高校フリースケート黄金ペア白鳥あずさと三千院帝のうち、片割れの女の子の方から、あかねは勝負を申し込まれた。種目はペアスケート、その勝負に賭けるものは先刻白鳥あずさにてシャルロットという名前を付けられ持ち去られそうになったブタだという。そしてペアスケートだというからには当然白鳥あずさには三千院帝がついてくるわけで、じゃああかねのパートナーといったら誰だと言われればそりゃあやっぱり乱馬しかいないのだ・というのはのいうところの持論みたいなものだが、先だってのあきこから電話は、あきこ自身強くそれに同意してくれていた。だって、だ。連れが迷惑をかけたお詫びとやらで、三千院帝はあかねにキスを迫ろうとしたという。正直はアホかと思った。どんだけ自分が女の子たちに愛されていると思い込んでいるのか。そりゃあ顔は人並み以上にいいのかもしれないけれど―――。とまあつまり、三千院帝は乱馬の怒りを買ったわけだ。そしてその顔に挑戦状叩きつけた・と―――熱っぽく語るあきこはまさに女の子そのものだった。そしていつかわたしもそんなふうに誰かにしてもらいたいとも言っていた。それにはとても同感する。私だって、私だって――――と、は思うのだ。だから後半はもうぐだぐだの恋バナで終わった。もうほんっと関係なかった、最後のほうは、なーんにも。


「あんたらが組むのー?ペアって息が合ってないいけないんでしょ」
「えー、そうですかあ。結構ツーカーよねぇ?」
 きゃいきゃい・と、はもぐりこんだコタツの中でみかんをの皮を剥いていく。案の定、ペアスケートで勝負することになったということは口にしても、乱馬たちはその経緯を明らかにしなかった。だからつまり、そういうことなんだろう。あきこが言っていたことはまさにビンゴ!!
「そうねぇ、あかねと乱馬君は仲がいいもんねー」
「そぉ見える?」
「まーオレは、ブタがどーなろーと知ったこっちゃ…」
「大事なのはあかねだもんねー」
 からから笑うの口内に、みかんの欠片が放り込まれて黙らせられる。突然ふってわいたような異物の感覚に、は当然むせてしまったので、涙目になりながら恨めしそうに乱馬を見遣れば、やっぱり乱馬も恨みがましそうにこちらを見ているのだ。別にからかっているつもりはなかったけれど、からかわれてるとでも思ったか。
「お前こそ、今日はどこの誰とデートを楽しんでいたんだか?」
「そっ………れ、はっ…!!?」
 えぇ!!?と、は思っても見なかった乱馬の言葉に今度は自分が目を見開くはめになった。慌ててあかねを見れど、ぶんぶんと首を横に振ってはいた。じゃあなんだ、乱馬は自分で感づいたっていうのか。それは―――昔からどこからか秘密ごとをかぎ分けて見破ってしまう乱馬のことだ―――あながち間違いではなさそうだけれど。
「べつに、どこの誰とデートしようが乱馬には関係ないでしょ」
「関係なくはねーだろが!!」
 ふんだ・と、開き直っては居直った。どうせ分かってるくせに、あえてそれをの口から聞こうだなんて、性格悪いっていうか、なんていうか。掌の中で丁寧に筋を取っていったみかんを、はひとかけら頬張った。甘い。










「で、良牙はなんて言ってたんだよ」
「んー?…………ってその手にひっかかるかバアーカ!!」
「とか言ってる時点でもう引っかかってるんだよバカ!!」
 手はテキパキとみかんを剥き、口に放りながらもお互いにバカ・と、罵る言葉はコタツの上で飛び交った。「乱馬とのほうが息があってるわよねえ」と、ぼんやりあかねが言うもんだから、は乱馬とふたりしてきょと・と、目を見合わせしまった。
「双子だから当たり前ですよ」
「良牙君」
 どこからふってわいたか、ガラ・と、力強く居間と廊下を仕切る障子をあけて、飛び込んできたのは良牙だ。ほっこりとあたたかそうな湯気が絶え間なく良牙の背後で出ていた。やっぱり・と、は思う。
ちゃん…、その。今日は―――」
「どーしたシャルロット」
「誰がシャルロットだ!!」


 どうしても口元が緩んでしまいそうになるのを必死に抑えて、はごまかし紛れにお茶を入れ始める。かすみの分、なびきの分、あかねの分、乱馬の分、自分の分。七つ目の湯飲みに注いだお茶を、そっと良牙に差し出した。
「はい」
「あ…、ありが、とう」
 けっ。と、そっぽを向いて、それ以上乱馬はなんにも喋んなかった。その横で、は良牙から言い訳と取り繕いのような言葉を聞いて、そして仕切りなおしのデートの約束をしたのだった。










 


2007/4/22 アラナミ