06










「ほら乱馬。なによ、その腰つき」


 つややかでキラキラしているスケートリンクで、乱馬は情けない中腰姿であかねに手を引かれ、滑っていた。いや、滑っているあかねに引っ張られていただけ・だ。
 スケートの勝負をしようってもんなら、当然滑れるもんだと思っていたのだ、あかねも、だって。けれど一歩スケートリンクに足を踏み出したその瞬間、片足滑らせてその場でそのまましこたま頭を打ち付けた―――なんてベタ過ぎる展開を見せてくれたりもしたのだか笑えなかった。それで本当に勝負なんてできるのか・と。


「しゃんとしなさい、男でしょ」
「い、今は女だもーん」


 そう、へっぴり腰で情けない格好でスケートリンクを引っ張られている乱馬は女だ。男が滑れないなんてかっこ悪いと乱馬は言うが、女でも充分その姿はかっこ悪い。スケートシューズ抱えて先ほどから良牙を待っているは、乱馬の姿を見てずっとやきもきしていた。しゃんと立て!足に力を入れるな!!自然体で滑れ!!!かく言うは乱馬とは打って変わって180度違う。


「まだかなー?」
 待ち人いまだ来たらずのは、さっきからずっと、人ごみの中に目を走らせている。やっぱり現地集合なんてしなければよかったなあ・と、思うのだけれど、良牙はどうしてもと言って聞かなかった。あんまり熱心に、絶対に辿りつくからというもんだから、はそれに頷いた。だったらやっぱり探しになど行かず、約束した場所で待ってようと思うのだ。
「あれ?」
 人ごみの中に、は見覚えのある姿を見た。良牙ではない。良牙だったら、スケートリンクの上であれほどなめらかに滑れるわけがないのだ。ふわふわの栗毛・と、いけ好かない色男?ぽん・と、は手を打ってそれが白鳥あずさと三千院帝だと合点した。そしてすぐさま短気な乱馬を思って、早期決戦を危惧するのだ。の悩みの種はいつだって尽きない…ような気がする。


「わあああああああああん!!」


 あ・と、気が付いたときにはもう遅い。そうか、相手が大人しくしてるか・なんてことはこれっぽっちも想像していなかったのだから、しょうがないかもしれない。白鳥あずさに軽くなれど体当たりされたあかねは、その手から乱馬の手を手放してしまっていて、勢いよく後ろへ滑ってそのスピードはどんどん加速してしまっていた。
「乱馬!!」
 は慌て、スケートシューズを履いていないことも忘れて飛び出した。ただの靴で、凍ったリングの上に足をつけばどうなるかなんて、冷静に考えればわかることなのに・だ。
「ぎゃん!!」
 案の定足をついたその場で思い切りしりもちをついたは、しこたま地面に打ち付けた腰を涙目ながらにさすった。痛い、けれど乱馬だって―――と、顔をあげたの目に映ったのは、三千院に助けられて抱きかかえられている乱馬の姿・だ。女の子の姿が功を成したな―――と、の顔はいささか引きつった。痛い思いをしてまで心配して飛び出したっていうのに。気を取り直しては立ち上がる。打ち付けた腰は痛かったが、別に大したことはない―――けど。


「やっだ、スカートが…」
 破れてる・と、慌ててはそこを手でおさえてきょろきょろとあたりを見回した。帰る・のはまだ、良牙を待つのだからできないし。かといってこのままここにいるわけにはいかない。
 ちょっと寒いけど・と、は着ていた上着を腰に巻きつけて、とりあえずの応急処置だ。とにかくまだ当分ここで待つだろうから―――はリンクを後ろに走り出す。スカートを買うために・だ。










 


2007/4/22 アラナミ