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 乱馬がプライドを捨てウェイトレスとして猫飯店で働いている間、はあかねと悠々としたスローライフを満喫していた。…というのは半分冗談で。乱馬がバイトに明け暮れてるせいでここ1週間の私生活は随分静かなものだった。そろそろ様子が気になって仕方がなさそうなあかねを誘い、今日は猫飯店へと来ている。


「こんにちわー」
「乱馬いるー?」
 あかねと共に猫飯店に遊びに来たたちは、店に入るなり7つもの熱々のラーメンどんぶりを大道芸のようにくるくる回しながら運ぶ乱馬を見て絶句した。


「もう辞めたら〜?」
「相当芸も仕入れたみたいだし」
「わはははははははははははははは、なんのこれしき」


 からからと笑う乱馬は空笑いで、どうにもコロンには敵わないことは火を見るより明らかだった。
 うーん、本当に男に戻れるといいんだけどなー、なんて思っちゃうくらいには果てしなさが垣間見える。




「婿殿、ちょっくら来い」
 呼ばれて付いてきたところは猫飯店の裏口だった。そこでコロンはいきなり火を起こし始めたのでたちは目を見張る。
「なんだよ、この暑いのにたき火なんてしやがって」
「シャンプー、礼のものを」
「はいね」


 コロンに袋を手渡すシャンプー。その袋は見覚えのあるものだった…。


「さて、ここに天津甘栗がある。よーく見とれよ」
 袋の中に入っていた甘栗全てをたき火の中に放り込むコロン。たき火の前に立ったコロンは、すっと目を細め、その腕を火の中に伸ばしていった。


「!」
 目を見張る乱馬たちを前に、コロンは火中の栗を物凄く素早いスピードで拾い上げていった。目にもとまらぬ速さで、火が腕を焼くより早く、風のように動けばこそのなせる業に、たちはおののいた。


「幻の神拳、火中天津甘栗拳ねっ!」
「なんて早業なの…」
「これをマスターすれば、不死鳥丸を奪うのもたやすいことじゃろう」
 得意げに笑うコロンを、乱馬は脅威に満ちた目で見ていた。けれどすぐさま、乱馬の瞳に炎が灯るのをは見ていた。


「よーし、やってやろーじゃねぇか!燃えるぜ!」


 言葉の通り、乱馬は燃えた。まずは右足、たき火を踏みつけたその足からだった。
気を利かせたシャンプーが、バケツの水で消火してくれたので大事に至らなかったが、多分今日は無理だろう。
「熱さで気絶してるわ」
「たき火の上に立つ、危ない」
「もしかしたら熱さに慣れようとしたのかも」
「…まさか」
「…だよねえ」


 あははは、と空の笑いが夏の空に上がる。気絶している乱馬をおぶって、はあかねと帰路についたのだった。















2012/12/29 ナミコ