03










 それから乱馬は毎日毎日飽きもせず、たき火の前で焦げていた。
 たき火、栗、そしてこげた乱馬。そんな光景もそろそろ習慣となってしまい、天道家の庭で乱馬が焦げていたとしてもあまり気にならなくなってきてしまった。それに今日は縁日があるせいか、みんなそわそわと時計を気にしたり、浴衣を着たりと忙しい。特に早雲と玄馬は誰よりも浮き足立っていて、率先してそっちに気をとられている。




「みんな、仕度はできたかなっ?」
「いーわよ、おとうさん」
 涼しげな菖蒲柄の浴衣を身に纏ったあかねが、玄関先に現れた。




「あ、菖蒲の浴衣にしたんだね、かわいー」
「えへへ、の牡丹の浴衣だってかわいいわよ」


 きやっきゃっと黄色い声をあげるとあかね。それに続いてなびきとあかねも玄関先に集まる。
「乱馬君は?」
「また庭で焦げているじゃない?」
「しょーがないから声をかけてあげるか」


 とあかねが庭先にでると、呆然とたき火の前で焦げている乱馬がいた。どこを見ているのか、視線の位置は定まらず、途方に暮れているのだろうということだけはよくわかった。
「乱馬ー」
 あかねとがそんな乱馬を見かねて声をかけたところだった。


「婿殿、火中天津甘栗拳は会得したかの?」
「ばばあ」
 ひょっこり現れたコロンの姿に、先程まで途方に暮れていた乱馬の目が鋭く変わる。
「ほれほれ、不死鳥丸じゃぞ」
 目の前にちらつかされた不死鳥丸を前に、乱馬の目付きはいっそう鋭さを増す。すかさずそれを奪おうと乱馬は手を出すが、その上を行くコロンは"不可"の判子を乱馬の腕へ押した。わなわなとそれを見る乱馬。


「ふっ、まだまだ手が遅い」
 それどころか、乱馬が取れずにいた火中に転がる甘栗を、コロンはいともあっさりそれを拾い上げて見せた。
「すごーい、おばあさん」
などきとかすみがそれに拍手を送る。それを横目で見つつ、はなんとなく、思ったのだ。


「火の中の栗を取る…ねぇ」
 するり、と手を伸ばしたは精神を集中して火の真ん中、燃える栗をひとつ拾い上げる。
「つまり、こういうこと?」
「ほーお、大したスピードじゃのう」
「速さだけは自信あるんだあ」


 は得意げに笑った。力も武芸もそういったものはなにひとつ乱馬にかなうことは出来ないけれど、唯一スピードだけは昔から自身があった。早すぎて風のようだって言われることはなによりの賞賛だったっけ。


、そのままばーさんの不死鳥丸を取れ!」
 言われるがままにはコロンの首からぶら下がる不死鳥丸のネックレスに手を伸ばす。今にも掴めそうなその直前で、は腕を止める。
「どうした、取らんのか?」
「うーん…私が取ってもね、なーんか違うでしょ」
「こら!お前兄を裏切るのか!」
「自分の力で取んなきゃ、意味ないでしょ。じゃなきゃまた総身猫舌のツボ、押されちゃうよ」


「心意気はさすが、武道家じゃの」
 といいつつコロンは、隙をついてをひっくり返した。
「ぎゃん!」
「スピード以外はてんで話しにならのがの!」
「こんちくしょう!」


「また会おう!」
 高笑いをあげて軽々と飛び跳ねて去っていく背中を、と乱馬は悔しげに見つめた。
「くそー」




「うーむ…乱馬君、えらいばあさんと関わってしまったな」
「男に戻るにはどうしても、火中天津甘栗拳のスピードを身につけなきゃならない」
「無理よ、ただでさえ総身猫舌で熱さに弱くなってるのに」
「ううっ、熱いよー、熱いよー」
 涙を流してたき火に手を伸ばす乱馬。けれど熱気に負けてしまい、それ以上は近づけないでいる。
「ちくしょう、どうすれば!どうすればいいんだ!!」
 悔しさのあまり、地面に拳を叩きつける乱馬。


「乱馬君、元気を出すんだ」
「おじさん…」
「夜店に行けば何とかなる」
「え…?」


「だからさ、嫌なこと全部忘れられるしい」
「ちょっと待て、忘れてどーすんだよ」
 楽しいよ。とプレート持った玄馬が鼻歌歌いながら早雲の後ろに立ったのだ。














2012/12/29 ナミコ