04










「ったくもー」
「いーじゃない、ちょっとくらい」
「そーだよお、たまには息抜きも必要だよ」
「あのな、俺はこんなことして、浮かれてる場合じゃあ…」


 なんて文句を言ってた口はどこへ言ったのやら、りんごあめに射的、ヨーヨーにわたあめと、端から端へと夜店を梯子しているうちにすっかり乱馬の頭から天津甘栗拳のことなんて抜けてしまったようで、心底縁日を楽しみ始めた。そうなるともすっかり同調し、一緒にあっちにこっちと楽しみ始めたのだった。


「金魚すくいやろーよっ!」
 すっかり浮かれきってる乱馬とはあかねをひっぱり金魚すくいの屋台の前へしゃがみ込んだ。
「はいはい、一回100円ね。ただし全部すくい取ったらタダだよっ」
 なんて軽口の客寄せ文句にすっかりその気になったのはあかねで、腕まくりして意気込んだ。
「えいっ!」
「………」
 けれどその意気込みとは正反対に、ぼふっと音を立てて金魚をすくうためのエモノは敗れた。
「はい、もう一本」
「おっかしーなあ、水につけただけなのに…」


 勢いよく水に突っ込むが、次々と紙は破れるばかり。息を荒くして半泣きで「不良品じゃないの?」と突っかかるが、いやいやまさか。
「おめーが極端に不器用なんだよ」
「ふんっ」
 と、あかねの代わりにしゃがみ込み、腕まくりをする乱馬に思わずはにやりとした。
 ほんと、なんだかんだで仲いーよなあ、と。黙々と金魚を獲得しているなんて目もくれずのやり取りに、少なからずの寂しさを覚えるけれど、たぶんこの気持ちはが良牙と一緒にいるときは乱馬が味わっているものなんだろう。そう思うとなんだかこの寂しさすら愛しく思えておかしかった。


「いくぜっ」
 腕を大きく振り上げた乱馬は、目の飛び出るような勢いで水槽の中を泳ぐ金魚を救い上げていく。その様はまさに圧巻で、通りがかった通行人も思わず覗き込み、感嘆の声をあげ、人垣を作り上げていく。
「きゃーっ!全部とればタダよっ、タダっ!」
「軽い軽い!」
 群集とあかねの声に気をよくしたのか、乱馬はさらにスピードをあげて金魚をすくいつづけていった。露店のおっちゃんはひやひやと顔を青褪めさせている。そりゃそうだろう、このまま乱馬がすくいきったら儲けなしのまま営業終了だよ…かわいそうだけど、そういう面白そうな展開は期待してる!えへ!




「もうひと勝負!受けてもらうぜピラニアつかみ取り!」
 どん、とどこから出したのか大きな水槽を持ち出した露店のおっちゃんは、乱馬に勝負をつきつけた。
「全部取れなかったら金魚返しな!」
 卑怯かと思われるが、おっちゃんも商売だから必死だ。だけと水槽の中、勢いよく泳いでる強面のピラニアが数十匹を見ると、ちょおーっと私は遠慮したいかなーなんて思うけど…。


「ずるいずるいずるい!」
 イマサラだと抗議するあかねだが、それより乱馬の内なる闘志は燃えてしまったらしい。文字通り、腕を鳴らした乱馬は一際真剣な表情で、まるでその勝負受けてたった・とでもいいたそうな雰囲気だ。
「おもしれーじゃねーか」
「噛まれちゃうわよっ」
「噛まれる前にとればいんじゃない?」
「つまり要はスピード…」




 ハッと気が付いたように目を大きく開く乱馬に、も同じように閃く。
「つまりそれって、火中天津甘栗拳と同じ原理ね」
「ピラニアの攻撃を避けながら掴み取るスピードを身につければ…」
「中天津甘栗拳を会得したのと同じねっ!」
「よおし、特訓だあ!」


 憐れ、おっちゃん。こうなったら金魚は戻ってこないと思うよ、と哀れみの目では金魚すくい屋のおっちゃんを見つめたのだった。













2012/12/29 ナミコ