嗚呼、オスカル。






この年下の男の肩に背負わされた重みがチラリと垣間見えたとき、自分の背負ったものなんかちっぽけなもんなんだと、そう思った。
眩しいものを見るようだ。
ちっぽけで、てめえのことばかりでいっぱいな癖に、それでもいっちょまえにあいつと同じ目線で前を見れたらと、願った。
誰にも弱みを見せないあいつを支えるものでありたいと、そう思った。





毎日毎日考えるのはあいつのことばかりで、朝も昼も夜もあいつを考えてる自分がいて、なんだ、これじゃあまるであいつのことが好きみたいじゃねえか!!と思ったその日の夜、オレに抱かれるあいつの夢を見た。
ひどく淫猥なあの夢を思い出すだけでごくりと思わず唾をのんでしまうほどだった。

信じられるか、このククール様がこんなだなんて!

ああ、しかしあいつが女だったらよかったのに!これじゃあまるで長い修道院生活が呪いのように身に染みてしまってるみたいじゃないか!!
男色なんてめずらしくもなんともない。女を禁じられた男は男同士で慰めあうなんてよく聞くことだ。実際あったし、そんなことだらけだ。
いやいや、しかしオレの沽券のために言わせて貰うが、オレは断じてその毛はない。男なんてまっぴらだし、そんなのは甲斐性も信仰心もそこそこな馬鹿なやつらがやるばっかなんだ。
オレは女の子が好きだし、そうだ、あのやわらかい大きな胸が大好きなんだ。ふわふわでぷりぷりのそう、ゼシカみたいな女の子が大好きなんだ――――。
ククールは自分に言い聞かせるようになんども同じことを呟いた。

「オレはふわふわでぷりぷりのゼシカみたいな女の子が大好き、ゼシカみたいな女の子が大好き、ゼシカみたいな女の子が大好き―――――」

そうだ、今夜は酒場に行ってマリアといいことしよう。それでもって明日はリサ、また明日はラヴィだ。
オレの好きな女の子たちと一緒に楽しい時間を過ごして、そんでもってあいつのことは忘れちまおう。





しかし現実と人の心ははそこまで甘いもんじゃあなかったらしい。
オレはこの目で見てしまった。マリアもリサもラヴィもみんな、セックスしてるその途中からフッとあいつの顔にすりかわる。
ラヴィなんか特にひどかった。幻覚はついに喋りだし、こぶりの胸を晒していくラヴィの行動に合わせて言葉を選んでいった。
本当に、どうかしてる。

「黙ってたけど、女だったんだ。ねぇ、ククール」

そんな言葉、期待から生み出たもんだってのに、柄にもなく翻弄され、がっついてしまった。
今日のククールすごかったワ、なんていつもなら嬉しい賞賛の言葉も今にいたっては自分の情けなさを見せ付けられるものでしかなかった。
ああそうだ、オレはあいつが好きなんだ。抱き締めてキスしてセックスして、そんでもって大切にしたいんだ。
すこしだけ遠回りして、オレはそれに気が付いた。





「ドクターもさじを投げる病っつうのはなんだったかな…」
「恋の病なんじゃないの?」
「そうか、やっぱりそれか…」
最近の絶不調ぶりを知っている仲間たちはやけに優しくオレに接してくれていた。
今日も今日とて空まわりを発揮するオレに見かねたゼシカが酒の相手をしてくれた。ホント、普段じゃあ考えらんねえんだわ、こんなの。

「なに、あんた恋しちゃってるわけ?」
「そう、オレはいつまでたってもつれない君を愛しちゃったんだ」
「あーっはっはっ!!」
ガツン、と脳天に容赦ないチョップが入って……アイタタ、手加減ぐらいしてくれよ、ゼシカこえーなぁ。
勝気に大きく笑うゼシカは、着飾って自分をキレイに見せることに必死になってククールのまわりに取り巻いた女の子たちとは違っていた。飾らないキレイさが、今まで見たことない種類のものだったから好きだった。でも愛しちゃったとかそういうのとは、違うんだなこれが。

「うー、あー、」
「湿っぽいわね、気持ち悪い。いっそ告白でもして気持ちの整理をつけてみたらどうなの」
「うがー」
「(ダメだわ、キャラが違う)………ちょっとヤンガスー、あんたもこっちで飲みなさいよー!!!」
酒がしょっぱい、涙の味か…ちくしょう本当に本当に好きなんだ。オレはお前が男だって構わない、平気だ。男のお前を好きになったんじゃない、好きになったお前がたまたま男だったんだ。

「絶対、信じてなんかくれねぇよ」

そうだ、それもあった。だってオレ嘘ばっかつくんだ、女とくればみんな口説いてまわるんだ。ふざけてるって思われて、信じてもらえなくって、それでそれで……。

「絶対なんてことはないでがす」
酒の入ったジョッキがごとんとテーブルの上に置かれた。その振動が微かに伝わり飲みかけのグラスの中身に波紋をもたらした。
「そーねぇ、否定的な絶対ってわりとあてになんないもんよねー」
「絶対って信じるものに使うんでげす。できる、とか大丈夫とか前向きなそういうのは願いなんでがす。でも、否定的に使うってことは、その―――――」
口を濁したヤンガスが、いいにくそうにもごもご言葉を噛んだ。なんとなく、なんとなくだけどわかる、けど。

「あんたはじめから諦めてんのよ」

ゼシカの口からもたらされたハッキリとした言葉に、昔少しだけ入れ込んだ女のことを思い出した。
あんた本当はお兄さんに認めて貰いたんでしょ。認めて貰えないから、だから憎いんでしょ。
知ったかぶりはよせよと言い、この女はもうお終いだととそう思った。忘れやしないぜケイティ、旅の一座の踊り子だった君はたった一週間でドニの町から去ってった。たった一週間の間なのに入れ込みそうになって線を引いた。そうだ、危ない。隠し通してきたものを引きずり出す頭のいい女。諦めてる自分を、見透かす女。

「きっついなぁ……ソレ」
「本当のことよ。ねえ、あんたが思ってるほど、ひどくないわよ」
グラスの中身は溶けた氷と混じって薄く薄くなっていく。飲んだらきっとうまずいはずなのに、オレは手を伸ばして残りすべてを自棄になって煽った。







 



エイトの性別選べたら面白かったのに…と本気で思っている自分がいます。

2004/12/20  ナミコ