あなたとせかい






例えば話をするときとかお前の顔を見上げなくっちゃならないし、タンスの上のそのまた上くらいになるとお前を頼んなきゃなんなくなるし、横に立たれた時なんかその差はありありと見せ付けられるだろうし、抱きしめられる時なんかすっぽりだ、キスのときはお前がかがむかオレが背伸びするか、お前の膝に乗ってやっと目線がほんのちょっとだけ勝つってさ、なんかさ、ズルイって。

「エイトの唇やわらけー」

へらへら笑って唇を甘噛みしたり、チュッチュッと音を立ててキスをし続けるククールにエイトは少しだけカチンとさせられた。
能天気に笑ってくれちゃってるこの男は嬉しそうに腕の中のエイトを撫でたり抱きしめたりキスすることで愛を示している。
それを嬉しくないわけがないエイトであるけれど、それでももしも自分のほうが頭ひとつぶん高かったらって、そう思う時がないわけではないんだ。

さわさわと身体を撫ぜていた手は深い口付けと共に下腹部を探り、刺激を与える。
戯れる夜に冗談はなく、まるで手馴れた男女の付き合いのようにふたりは身体をくっつけあわす。

好きだけど、好きって言ってないけど。

「んっ、」
ふたつまとめてすりあげられる感覚に身震いしてしがみついた。肩に触れる髪が少しくすぐったい。
早急な指は容赦なく的確な場所のみを狙っているから手早く一度イかせるつもりなんだろう。
上擦る声と耐え切れず漏れる声、噛み締めてククールの肩に押し付けてやり過ごそうとすれば身体はどんどんずりさがり、少し上くらいだった目線は肩に埋まってしまった。

「んあっ、…っはぁ、ん」

どくんと脈打ってでたものは下腹部を濡らしそうなものなのに、うまいことククールの手で受け止められ、それはさらに後ろの蕾を開くための滑りとして活用されている。
塗り込められ抜き差ししている指は次第に速さと本数を増して、エイトを追い上げる。
「ちょっ、ばっか…、ククー…」
次々と襲い来る快楽の波が途絶えることはなく、激しい。
一回イったばかりの身体はただでさえ感じやすいというのに、それでも指は適所だけを突いて止まないから、エイトはただもう首を振ってすがりつくしかできない。

「なー、エイト。いれてもいい?」
絶えず抽挿を繰り返していた指がずるりと抜かれ、かわりに押し当てられたククール自身にエイトは一瞬身体を強張らせる。
「……ダメって言ったら、お前、やめんの?」
「あー、まー、やめらんないけどいちおー聞いてみようかと思ったわけですよ」
「……ふぅん、…」

見上げればこの目線。やっぱりちょっと、ムカついて。
「ダメ」
「えー!?ちょ、ちょっとエイト君。そりゃあないんじゃねーの!!」
「や、ーだっ」
ふい、と視線をあさっての方へ向けると、悔し紛れにククールは押し当てたままぐりぐりとなぞって欲しがるようにと差し向けた。
「やっ…だってっ…」
ぐりぐりこすりつけられれば蕾はエイトの意思と反してそれをぐいぐい飲み込んでいく。
「上の口が素直でないエイト君、下のお口は素直なようですよ」
にやにや顔のククールはしてやったりとでも言わんばかりに笑い、腰を進めていく。すべてをエイトの中に収めることに成功したククールはぽんぽんとエイトの頭を撫で「いいこですねー」とちゃかすように言った。耳元を掠める声は低いというのに。

「やっ…、ばか!!嫌だって、言っ…!!」
文句をたれる口をキスすることで塞いで、やりこめるように腰を揺らした。そうすればもう、可愛くない文句を言う口は塞がってしまうから。
「嫌よ嫌よも好きのうちってな。きゅって締め付けてるぜ、気持ちいいって」
「ばっ…、か、リスマぁ〜!!!」

口ではなんと言おうとも、こうなってしまったらどうせククールの好きな方向へ行くのだ。だってこの男は快楽を求めることにひどく純粋に従事しているのだから。
ずるい、なにからなにまでなんてずるい男だ、とエイトは思う。
あと少し、背が高かったら世界は違って見えたのかもしれない。

ホロリ、と生理的に零れた涙をククールは舐め取った。
触れる手はあたたかく指先は愛しいほどに優しい。

違って見えたかもしれない世界を、この男はいつも見ているのだ。と思うと心はうろたえもやがかる。
その世界を見たい、と思うことを悪いこととは、決して思わない。
抱き合う夜は、そうしてふける。
夜明けの灯火がふたりを照らすまで。






 

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つづきます。

2004/12/28 ナミコ