スタンドバイミーを手に






 逃げてるんだって知ってしまったのはいつぐらいだったんだろう。ただ、漠然と、どうしてこんなにも街と街を行き来して、定住しないのかって不思議に思っていたけど、ただ母さんは旅が好きなんだって思ってたのに。

「あ、ねえちょっと!!あなたエイトじゃない?」
 街に行くとき母さんはいつも顔を隠すけど、それでもときおり誰かに見つけられて声をかけられる。どの街でもそうだった。昔、母さんは旅をしていてそれで随分顔が広くなってしまったっていっていたっけ。それはちっとも悪いことじゃないのに、あんまりよくないみたいな表情でぽつりと零した。
 どの街に行っても母さんに好意的な世界は、オレは好きだったのにどうしてだろうか。声をかける人にちょっと困ったような顔をして、笑い返す。

 だけどそれもオレがルーラを覚えるころにはなくなった。森の奥深く、空を飛んでしかこられない様なところに小さな家を建てて、母さんはそこにずっといる。誰も、オレと母さん以外がこられないような場所で。

そう、だから言葉にしてもらったわけじゃないし、そういうことを聞いたわけじゃないんだ。ただ漠然と、そうなんだって感じる。それは多分―――、オレの父親にあたる人のことなんだろうなあと、思うけど。


「なあ、トムさんは知ってんだろ?オレの父親がどんな奴だったかって」
 母さんのメモを渡しながらこうして酒場の店主のトムさんに聞くのは何度目だろうか。繰り返し繰り返し何度も聞くのは、直接母さんに聞くのはなんとなく気が引けたからだ。でも酒場のトムさんなら絶対知ってると思うんだ。オレが生まれたときとりあげてくれた産婆っていうのがトムさんの奥さんで、夫婦揃って仲良くここを切り盛りしているトムさん夫婦はオレを本当の子供みたいに可愛がってくれているし。
「ホラよ、ミルクとイモだ。よかったなー、多分今日はおめぇさんの好きなシチューじゃねぇのかー」
「馬鹿にすんなよっ、もう」
 預かった分のゴールド分だけ払って、オレはどかっと酒場の椅子に腰掛ける。開店前の酒場がらんと寂しく、子供がいたってうん…まあ―――おかしくはないよな。

「オレはいざって時に母さんを守らなくちゃいけないんだ。母さんが逃げるくらいキョウアクな父親がやってきたときのために」
「ほぉー、そりゃいい心がけだな」
「だろ!?だったらせめてどんな外見してるかってだけでも教えてくれよ、ねぇ」
 こつんと小さく小突かれる。トムさんの奥さんのマリアさんがふふ、と微笑んでオレンジジュースを出してくれた。氷の入った冷たいジュース、おいしいのに。
「それともオレ、母さんの子供じゃないんだ…。みんなしてオレに嘘ついて、本当はどっかで拾われてきた子供なんだ…」
「いやいや、それはねぇって、ホラ、ああ、泣くんじゃないぞ。おめぇの母さん怖いんだから………ったくよぉ」
 下を俯いて声を震わせて、ぽつんと呟けば完璧だろ。本当は泣いてないし、舌を出してる勢いだし、へへっなんでだかさ、オレってばちよっとだけ嘘つくのうまいんだよな。でもちょっとだけ母さんに似てるからすぐボロがでるんだけどさ。

「オレだって口止めされてんだ……どーしても知りたかったらリーザス村のゼシカさんって人を訪ねろ」
「リーザス村?ゼシカさん?」
 出て来た固有名詞に顔を上げてオレンジジュースを遠慮なくストローで吸う。
「あっ、おめぇ嘘泣きしやかったな!?」嘘泣きなんかしてないよ、トムさんが勝手に勘違いしたんじゃん、へへ。

「リーザス村のゼシカさんね、トムさんサンキュー!マリアさんごちそーさま!!」
 テーブルの上に載ってたミルクとジャガイモの入った袋を抱えてオレは颯爽と酒場を飛び出していく。開けた視界に迷わず飛び込んでいくのは子供の特権なんだ。なにも恐れない、自分が1番強いとは思わないけど、それでも馬鹿じゃあないから。

 1番星が光ったところでオレはルーラを唱えた。家に向かってさ!





 



九月八日計画リクエストお題"嗚呼、オスカルのあとがきにかいてあったやつ(でしたよね?)"
どうもありがとうございました!!

続きは只今執筆中です〜!

2005/9/8  ナミコ