C l a r a






 ハロウィンの夜に紛れ込んだ子供。何処から来たのか、何処へ行くのか、わからない。白いおばけの布を被って隣にいたね、

 お前はだあれ。

 ちょっと疲れたねって座り込んだ。ドニの子供達はそんなオレもお構いなしに次の家に向かっていくのに、一緒に立ち止まった誰とも知れないお化けの子。

「お前、行かなくていいの?」
「もうだいじょうぶだから」

 なにがとは聞けなくて、ただ「ふぅん」と曖昧な相槌を打ったオレはさらさら冷たい夜風の中、さっき貰ったばかりのチョコレートの包みを開いてぱくり、口の中に放り込む。口の中じんわり広がるカカオの香りが甘くて、少し苦くて、せつなかった。
 家に帰ればきっと、母様がたくさんのお菓子を作って待っているだろう。領主の家の戸に、トリックオアトリートと呼びかけられるのはオレだけだった。一緒にその扉をくぐれるのは、オレが連れていくほんの一握りの子供達だった。

 この、お化けの子のお化けみたいな儚さは、もうこの子と二度と会えないんじゃないかって思えたものだったから。おかしいと笑うかな、初めて会ったばかりだっていうのに、この子が誰だか、それに名前だってまだわかんないっていうのに。

 白い布を被った黒髪黒目のお化け「なあ、うちへ来いよ」ぽっかり空いたなにかを、埋め尽くしてくれる誰か「うん」のような気がして。

 ためらいもなく頷いたお前の手を引いて、お菓子なんか目もくれず、夜の街を後にした。