「いた、いたたたたた!」


が思いっきり掴んだマジモンは、とてもとても痛そうな声を上げました。
おや……どこかで聞いた声のような気がするのですが……。
もしや…


「グラップ!?」
「は、はなせよ!」


おや、どうやら少し前にお別れしたマジモンのようですね。
グラップとゴイル。
ふたりひとくみで動き回った、食に関してえげつないマジモンですね。
食費がかかるから野性に帰してしまった日を覚えていますよ。
貴方達のご主人様はこの先の街にいるとかなんとか嘘までついて厄介払いしたの姿もね。


「なんであんたたちここにいんのよ。ご主人様は見つかった?」


はにっこりと笑いかけてグラップに聞いてみました。
するとグラップは「おー!」と叫んでくるりとの手から逃れました。
その横にゴイルも慌てて近づきます。


「おかげさまで会えたよ!」
「どうしてあの街にいるってわかったんだ、すげぇよ!」
「えー…まぁ、ちょっとねー」


グラップとゴイルは次々にへ感謝の言葉と再会の言葉を送ります。
あらあら、ほんの少しの間、しかも厄介払いしたというのに、思いのほか好意的ですね。
よかったですね、災い転じて福と成す、みたいなものでしょうか。


「ほう、お前がこいつらを助けたとかいう女か」


にこにことがグラップとゴイルと話をしていると、上からどこか偉そうな口調で男の子が話し掛けてきました。
さっきの王子様みたいな金髪の男の子ですね。


「あら、はい。えーと…」
「僕はドラコマルフォイ。君でも僕の家名は知っていると思うが、マジモン省の理事会に勤めている方の息子さ」


はぁー…理事会、ですか。
ちょっと、理事会っていったらたいそう偉いところなんですよ。
しかもマルフォイ家といったらものすごく有名な家柄なんですよ。
はそんなお家の家の人のマジモンを、一時期とはいえ助けていたんですね。


「こ、こんにちわ」
「もしかして運命だとでもいうのだろうか」
「…は?」


にっこり…という形容とはかけ離れていますが、鋭いニヒルな笑顔がに向けられます。
王子様といっちゃそうなんですが、どっちかというと敵国の王子様のような笑顔ですね。


「君とは昔、ホグワーツ村であった。まさかここで再会できるとは思わなかったけれどな」
「…ああ!!」


おや、記憶の端にひっかかっていましたか?
そういえば物語の冒頭でロングボトムの表記のときにドラコマルフォイという固有名詞がありましたね。
そうそう、はホグワーツ村を出るほんの数週間前、ドラコに会っていたんですね。


「お久しぶり、元気そうね。トレーナーとしての噂もすごいわ、とても強いって」
「まぁね、君だって相当なものらしいじゃないか」


トレーナー話に花が咲いた…とでもいうのでしょうか。
いえいえ、これはまだ世間一般でいう世間話の粋を出ません。
次に何が起こるかわからない…そういう世界ですから、油断をしてはいけませんよ。


「僕は君の噂を聞くたびに聞くたび後悔していてね……なぜだかわかるかい?」


ドラコがの右手をさっと取りました。
気取ったしぐさですねぇ…そしてそのままゆっくりと手の甲を頬と唇に近づけ、甲にキスを落としました。
前言撤回!気取ったしぐさではなく、気障なしぐさですね!
いったいなにを考えているのですか、この少年紳士もどきは!
フレジョはキーキー怒り出すし、ロングボトムは頬を染めていますよ。
リドエルに到ってはあれは別に騒ぐ事もないふつうのことなのか…リドエルもたいしたものですね。


「ど、どうして?」


は少したじろぎながらも聞き返しました。
なにか、それを聞き返してはいけないような気がするのですが…。
ホラ、後ろでパンジーがさっきよりも青ざめてたちを見てるじゃあありませんか。
これはもしかして、もしかしなくても恋のアレコレ、というやつでしょうかね。


「どうしてあのとき、君に好きだって言わなかったんだろうってさ」


予感的中、というやつですね。
次から次へと繰り出される鳥肌ものの気障な言葉にニワトリになってしまいそうですよ。
寒すぎてスコールも出てしまいそうですね。


「君はトレーナーにならないと思っていたから、マジモンマスターになったときに求愛しに行こうと思っていた。
そのほうが君も僕に惚れてくれるだろうか思ったのだけど、計算違いだった。君がこんなにもパワフルだったなんて…」


いう言葉のわりにはドラコは嬉しそうですねぇ。
なんなんでしょうか。
きっとあれですよ、なんて素晴らしいんだ。とか、惚れ直した。とか、新しい君の魅力に僕はハートを奪われた。とかいいますよ、きっと。


「新しい君の魅力に僕はまた君にこのハートを奪われたようだよ」


わぁ、大当たりですねぇ。
で、どうするんですか?
どうせのことですから打算的に考えてラッキーとか思っているんでしょう。
わかってますよ、ずいぶん長いこと一緒に旅をしてきたんですからね。
でも…は今は仲間がいるんです、ひとりじゃないんです。
みんなことも、ちゃんと考えてくださいね。


「ドラコ、あたし貴方の気持ち、とっても嬉しいわ」


にっこりと、はドラコに微笑みかけました。
でもそんなを見て、ロングボトムやフレジョたちは顔を顰めてしまいました。
の気持ちも、わからなくはないのですけれど…。


「本当かい、!」
「ええ」

「じゃあ、僕の父上に会ってくれるかい?」


ドラコは嬉しそうにの肩を抱き、も嬉しそうにしています。
ああ、もしかして、はここで旅をやめるつもりなんでしょうか…そんな。
ロングボトムとの約束はどうするんですか、
フレジョだってを慕っているんです。
リドエルだって、のこと好きなんですよ。

ねぇ、


「あたし――――」







「あたし、ドラコのお父様に会いに行く」

「ちょっと待って、あたしまだやることがある!」