「きゃあああああ!」
どすん、と重たい何かが落ちる音と、砂ぼこりが舞いました。
あたりはスリザリンによく似合った静けさがたちこめています。
「ふぅ…この技を出すことになろうとは……」
なに格好つけてるんですか、。
見よう見まねでマジモンの技を繰り出すトレーナーがどこにいるんですか、本当に規則や常識から飛び出す人ですねぇ。
ところでちょっとやそっとのマジモンより強くなってしまった…ということはロングボトムとどっちが強いんでしょうかね。
気になりますね。
「ぼくきっとより弱いんだ…」
ロングボトムが呆然と呟きました。
あらあら、ロングボトムに認められてしまってはしょうがありませんね。
ちょっとやそっとのマジモンより強いマジモントレーナー!ということで今度から噂されますよ。
よかったですね。
「よかぁないわよ」
…それはともかく、投げ飛ばしたパンジーはどうしたんですか?
いくらなんでも女の子相手に繰り出す技ではありませんよ。
「そうねぇ……ちょっと貴方、だいじょうぶ?」
いくらジャマをする相手といえども、思いやりというものは大切だと思いますよ。
騎士道精神というやつですね。
立派な心がけなんだからも覚えたほうがいいですよ。
ん?それは男の人の考えではないのかって?
強いものが弱いものにかける情けの事ですよ、だからいいんですよ。
「う、うーん…」
パンジーは目をしぱしぱと何回かまばたきさせてゆっくりと起き上がりました。
「えーと…」
どうやら少し混乱しているみたいですよ。
どうしますか?。
「パンジー、いきなり投げ飛ばしてごめんなさいね。でもあたし、どうしてもマジモンを回復しなきゃダメなのよ」
目的がこうも目の前にあるのにみすみす逃すなんてごめんだわ、と呟けば、パンジーはハッとしたようにに顔を向け、がっしりとその腕を掴みました。
な、なんでしょうか。
まさかまだ回復をさせてくれないとでも言うのでしょうか……。
「な、なによ…!」
パンジーは釣りあがった目で真剣にを睨みつけました。
は少したじろいで後ずさりしようとしますが、腕を掴まれているためそれもかないません。
ああ…どうなるというのでしょうか。
パンジーはゆっくりと口をあけて何かを言おうとします。
「……………るわ」
「は?」
パンジーの呟きは小さく、こんな緊迫した状況だというのにはまぬけですっとんきょうな声を上げました。
相変わらずですねぇ。
「認めるって言ってるのよ!貴方のこと!!」
認めるって…なんのことでしょうか……まさか、マジモンの回復をしてくれる…?
「あ、ああ…あたしの熱意を認めてくれるの?で、回復してくれるの?やぁだ、それなら早く言ってよーありが」
「目的のために手段を選ばない!なんてスリザリンに相応しいの!!さあ来て、ねえ来て、家でお茶しましょう」
「わっ!」
パンジーは立ち上がっての腕を掴んだまま小走りでスリザリン都市街を走り抜けていきます。
はわけがわからないという顔をしています。
そうですね、後からついてくるマジモンたちも困惑した顔をしていますよ。
「紅茶はなにが好き?スコーンにはなにをのせる?それともパイの方がいいかしら!」
「あー……」
なんだかパンジーはとても嬉しそうですが、どうするんですか?
このままついていくんですか?
「なんかもうどうにでもしてってかんじが……」
そうですか…本当には流されやすいですねぇ。
地下道も目の前に来て寄り道するんですね。
まぁいいでしょう、お茶したらすぐに出発ですよ。
ロングボトムが心配そうにを見ていますからね。
パンジーにひっぱられて来たは、さすがに立派なお家を見て少々面食らいました。
家柄はそれなりにいいみたいですね。
玄関の絨毯はそれなりにふかふかしてて心地いいようです。
「こっちよ」
はパンジーに手招きされて少し小さめの、だけど可愛らしいお部屋に案内されました。
窓際を抜け、続けてテラスとなっている部屋です。
テラスにはテーブルとイスがふたつありました。
なんと準備のいいことか、ポットもカップもお菓子も用意されてふたりを待ち受けています。
さすが金持ちということでしょうか…そういえば玄関先でパンジーはメイドになにか頼んでいましたものね。
「座って」と促され、はゆっくりとイスに腰掛けました。
マジモンたちはメイドに手招きされ、部屋の中でマジモンフードや蛙チョコを食べていました。
「お砂糖はいくつ?ミルクはいれる?お菓子は好きに取ってちょうだい」
にっこりとパンジーが笑いました。
なかなか可愛いようですね。
おや…照れているのですか?
そういえばは女の子とはあまり親しくしてこなかったですからね。
初めての友達ということになるんでしょうか、よかったですね、。
「ありがと……」
渡された紅茶を、は照れながらもゆっくりと口につけました。
おいしいですか?
友達とのむお茶は、おいしいものですよ。
きっと会話も弾むはずです。
やっぱり友達とのおしゃべりは楽しかったようですね。
あっという間に時間は過ぎ、ただでさえ暗いスリザリン都市に夜が訪れました。
外はもう真っ暗闇の、闇の闇です。
フラッシュ、誰か使えましたっけ?
「これじゃあもう地下道へは行けないわ」
「今日はもう暗いからやめたほうがいいわ。それにスリザリンは夜になるとノクターン横丁って呼ばれる場所が活気になるの。危ないわ」
「だから今日は泊まっていって」というパンジーの言葉に、は素直に頷きました。
そうですね、それが賢明だと思いますよ。
スリザリンは治安も……噂ほどいいみたいじゃないようですから。
豪華な夕飯をごちそうになって、たちは寝室へと向かいました。
おや、どうしたんですか?。
少し元気がないようですよ?もしかしてまだ話したりませんか?
「うーん、ちょっと、ちょっとよ、ほんのちょっとだけなんだけどな…」
どうやら少し悩んでいるようですね。
らしくもない、いつもなら思い立ったが吉日!なのに……。
初めて出来た友達にどうしていいかわからないんですね。
いい傾向だと思うので、たくさん悩んでそれから決めたほうがいいですよ。
「うーん………」
数分廊下ではうなり、マジモンたちは部屋で寝てしまったやっとの頃、顔をあげて口を開きました。
「あたしちょっとパンジーのところへ行ってくるわ!」
「今日は遅いからもう寝るわ。パンジーと話すのは明日にしましょ」