「おはよう、朝だよ」
おや、ロングボトムの声がしますね。
起きて、朝ですよ。
ふかふかのベッドは寝心地がよかったですか?
さすがに出来のいいカーテンのせいか、ちっとも眠りを妨げるような日差しが入り込んできません。
さぁさぁ、でも起きて。
はやく支度して、パンジーと話して、それから地下道へ向かわなくちゃ。
一晩ぐっすり休んだから、マジモンたちも回復してますよ。
「失礼します、さま。お支度のお手伝いさせて頂きに参りましたわ」
「うーん…」
節度あるノックの後に、メイドが入り込んできました。
カーテンを開け、室内に朝の日差しを取り入れます。
は眠たい目をこすりながらベッドからおりました。
するとメイドは素早くベッドメイクしなおします。
は足取りはおぼつかないけれど、しっかりと目的をもって洗面台に向かいました。
顔を洗って、歯を磨いて、髪をブラシして、さぁ!
きっちりとアイロンがかけられ、のりのきいてパリッとしている洋服をメイドから手渡され、はそれに身を包みました。
おや、これは昨日までの着ていた洋服とは違うようですよ?
「それ、お嬢様からのプレゼントです。今日は用事があって見送れないそうですので、お詫びということだそうです」
デザインも質もいいですね、よく似合ってますよ。
でも…見送れないってことは、パンジーとは今日はもう会えないのでしょうか。
だってもう地下道へ行かなくちゃあいけませんからね。
「落ちこむなよ、」
あらあら、珍しくフレジョがを気遣ってくれていますよ。
ロングボトムは言葉なしにもぽんぽんとの足を叩いています。
多分、背中か肩をさすってあげたかったのでしょう。
……全長からして足りませんものね。
でも、その気持ちはにはじゅうぶん伝わったと思いますよ。
「だいじょうぶよ、友達だもん。また会えるわ」
そうですね、友達ですからね。
しおらしいから、元の明るいに戻ったようです。
よかったですね。
が笑ってないとロングボトムもフレジョも、リドエルだって調子が狂ってしまうようですからね。
さぁ、スリザリンの地下道へと行きましょうか。
準備は万端、朝日がちょっぴりしょっぱかった出発です。
スリザリンの地下道は、それはそれは暗くて湿っぽくて気味の悪い場所でした。
こんなところに好んで多く生息してるなんて、なんとも湿っぽいマジモンですね。
だから肌の色があんなにも気味が悪いのでしょうか。
「趣味の悪い場所だわ…フレジョのやかましさは今は嬉しい…」
がぽつりとつぶやくと、褒めたわけではないのにフレジョは嬉しそうに騒ぎます。
にかまってもらえることが嬉しいみたいです、可愛いやつですね。
あちこち見て回って進んでゆくフレジョを筆頭に、は後をついてゆきます。
「なんだか嫌な気配がするよ…」
ロングボトムは大きく震えての後ろに隠れました。
ちょっとちょっとロングボトム、いくらマジモンになったとはいえ、それが男の子のすることなんですか?
リドエルが笑っていますよ。
「近くにスネイオウの巣があるんだろうね。スネイオウの薬はマジモンには効かないから、のことは僕が守ってあげるよ」
「まぁ、頼もしいこと。ありがとうリドエル」
あらあら、リドエルは実はこっそり女たらしの気があるようですね。
に忠実なフレジョがだまっていませんよ?
「はオレ達が守るんだぞ!」
「ひっこめ女たらし!」
のためならば仲間すら牙を向くフレジョは危なっかしいとも思えますが、それはそれでとても心強いとは少しだけ安心しました。
「…僕だっていざとなったらを守るさ…」
あらあら、聞きましたか?
こっそりとつぶやいた言葉は、どうやらみんなに聞こえたようです。
が目をまんまるにしてロングボトムを見ていますよ。
頼りないと思っていたロングボトムも、この旅で随分成長したみたいですね。
暗さと湿っぽさに不安だったの目も、今は明るく勇気に満ちています。
これなら、みんなで力をあわせれば、スネイオウも捕まえられそうな気がしますね。
「よーし、じゃあみんなでがんばろう!」
通じ合った心でえいえいおー!とみんなで手を振りかざしました。
そのときです!
「ずいぶんと楽しそうな話をしているではないか」
ねっとりとした声が暗い茂みのその向こうから聞こえます。
嫌な声ですね。
ロングボトムは早くも身体を震わせています。
「どれだけ手勢を合わせたとしても、我輩の魔法薬にはかなうはずもなかろう」
随分と自信過剰な発言ですねぇ…声がさっきより近づいてきているのを聞くと、どうやら近づいてきているようです。
フレジョはまっさきにの前に立って身構えます。
「うるさいぞ、スネイオウ!世の中は魔法薬学だけじゃないんだぜ」
「身のこなしの軽さってもんを教えてやるよ!」
フレジョは挑発するように茂みに向かってあっかんべーをします。
そう言えばリドエルが、スネイオウは短気で怒りっぽいって言ってましたっけ。
「生意気な口を聞くでない!減点するぞ!!」
「へっ、バーカバーカ!なにを減点するっていうんだ!」
「ここは学校じゃないんだぞ!」
なにやらわけのわからない会話ですねぇ。
この2匹は昔何かあったんでしょうか……おっと!スネイオウがいきり立って茂みから飛び出てきました!
戦闘開始のようですよ、モンスターボールの準備はいいですか?
「行け、フレジョ!」
「リドエル、君に決めた!」